葬儀式
提供: 新纂浄土宗大辞典
そうぎしき/葬儀式
死者を弔うための一連の儀式。遺体の処理、死の社会的確認、伝統的地域共同体の地縁血縁者による喪家はじめ地域社会全体の精神的物質的な危機の克服、先祖への仲間入り、家業繁栄・子孫安寧などの守護祈願、遺族・親族の悲嘆の軽減、関係者の仏道への導入、などの意味・目的もある。浄土宗において葬儀式は、阿弥陀仏の来迎引摂を仰ぎ、故人に剃度・引導作法を行って仏弟子とし、念仏を称えて極楽往生を念じすすめる儀式である。よって、故人の極楽往生を遂げせしめることが第一義であり、娑婆での生との別離と極楽への再生を果たすものである。『津戸の三郎へつかわす御返事』には、「疾く極楽へ参りて、悟りを開きて生死に還りて…一切衆生を遍く利益せん」(昭法全・五〇三)と、極楽への往生は当人だけのことではなく、すべての人々の救いのためであると心得るべきことを説いている。つまり仏教信者・念仏者にとっての往生の目的は、日々の生活のなかで念仏を称え、臨終に阿弥陀仏の来迎を得て極楽に往生し、菩薩として有縁無縁のすべての苦の衆生を救う還相回向に努め、最終的には悟りを得て成仏を果たすことにある。肉体的には終焉を迎えても、念仏者としての真の目的を果たすために往生し、新生の菩薩として生まれ変わる意味をもつのである。
浄土宗の葬儀式は、枕経・納棺・通夜・迎接式・表葬式(堂内式・露地式・三昧式・自宅式)・荼毘式・収骨式・埋葬式(納骨式)といった一連の儀礼からなるが、そのいずれも、来迎引接阿弥陀如来と発遣教主釈迦牟尼如来による二尊遣迎によって往生浄土を念じる法会である。浄土宗の葬儀式で行う下炬・引導・荼毘・収骨・埋葬等は、釈尊の父・浄飯王の葬送で行った故事に由来する。
枕経は死亡直後に勤める儀式で、阿弥陀仏の来迎引接を願う臨終勤行である。故人の家の仏壇前で、念持仏(仏壇の本尊)に新亡のあることを告げ、仏弟子となるための剃度作法・授与三帰三竟等を行う。納棺は遺体を棺に納めることで、湯灌をして、経帷子・手甲・脚絆・冠などの死装束に着替えさせる風習がある。このとき、生前に五重相伝を受けていた者は血脈と浄衣を納めることもある。納棺中は念仏を一唱一下でゆっくり称え、「納棺偈」ののち十念する。通夜は夜伽・伴夜などともいい、葬儀の前夜(逮夜)に行う。古くは本通夜と称して一晩中徹夜で勤めたが、現今では時間を定めて勤めるのが一般的となっている。念仏を主とし、誦経の他、法語・和讃など、なるべく僧俗ともに唱えられるものを用いる。翌日には迎接式を行う。出棺式ともいい、また、菩提寺から住職ほか多くの僧侶が伴い喪家に来るさまが、あたかも極楽浄土から阿弥陀仏が諸菩薩をともなって来迎する様子に、そして出棺後の葬列が往生人を極楽に引接する情景に似ていることから、俗に「迎え葬」ともいう。出棺に際しては、「根本陀羅尼」と「出棺偈」(如来の本誓は、一毫も謬ること無し。願わくは、仏決定して○〇〇を引接し給え)と唱え、十念を称える。この後、かつては、親族一同が揃って喪家から葬儀を執り行う場所まで大幡などの葬具を持って葬列をした。土葬が行われなくなった現今では、葬列は式場から棺を霊柩車に納めるまでのごく短い距離で行われるように変化した。先火葬の場合は、迎接式の後に出棺、荼毘式(火葬場)・表葬式の順に行われる。自宅あるいは会館などの葬祭場で行うときと後火葬の場合は、迎接式を略すことがある。なお表葬式は、限定的な意味で葬儀式と称することも一般化している。ここでは下炬と引導、念仏が重要な儀礼である。下炬は炬火による荼毘の作法、引導は故人を極楽に導くことで、浄飯王の葬送の故事に由来しており、下炬・引導の後に念仏回向して故人を極楽へ送るのが浄土宗における葬儀式の特色である。引導作法は、「四句の偈」(要偈)と浄土宗の肝要な教え(経文・法語)を伝え、二尊遣迎の文などを唱え、念仏者として極楽浄土を念じて十念を称える。この表葬式に対応するものとして、家族・親族および近親者のみで勤めるのを密葬といい、密葬とは別に日を改めて行う葬儀式の意味で表葬(本葬)と呼ぶこともある。著名人や企業経営者など、多くの参列者が見込まれる場合に行われることが多い。企業が主体となって勤めるものは、とくに社葬と言われる。なお表葬式は、勤める場所によってその名称を異にする。寺院の本堂で行う場合には堂内式、講堂・集会所・セレモニーホールなどの室内あるいは野外にテントを張って行う場合には露地式、火葬場・三昧堂などで行う場合には三昧式、遺族の家の仏壇の前または来迎仏の前で行う場合には自宅式という。堂内式の場合には、本堂の外縁などに祭壇を内陣向きに設け、導師は外陣に向いて誦経する外陣式で行うのが本義であるが、現今では式場の都合と会葬者の便を考慮し、祭壇を本尊前に安置する場合が多い。露地式・三昧式・自宅式は、棺前荘厳と式次第などは堂内式に準じる。火葬場で火葬にする直前には荼毘式を、火葬が終わって骨壺に収骨するときには収骨式を勤める。その後、埋葬(納骨)時に勤める埋葬式(納骨式)までが葬儀式の一連の流れである。
葬儀に対する人々の意識と執行の実態は、一九九〇年代以降大きく変化した。社葬など規模の大きな葬儀は減少し、自宅葬からセレモニーホールなどで行うこと(斎場葬)が一般化し、僧侶の出仕者数の減少など、葬儀の縮小化と簡略化が進行、家族など近親者以外の儀礼的・社交的な弔問客の参列を伴わない家族葬と呼ばれる形態も増えている。近年では宗教的儀礼の伴わない「お別れの会」が行われるようにもなっている。俗に直葬と称される、火葬のみを行う葬送は、宗教者による儀礼を伴わない、たんなる遺体処理の葬法とも捉えられる。一方で、平成二三年(二〇一一)に起きた東日本大震災を境に、葬儀の重要性と必要性を再認識する傾向があらためて高まり、その内実に関心が向けられるようになった。
【参考】板倉貫瑞『蓮門小子の枝折』(浄土宗、一九七一)、宍戸栄雄『一遇 葬儀式』一(一遇会、一九七七)、千葉満定『浄土宗法要精要』(浄土宗法式会、一九二二)、藤井正雄監修『葬儀大辞典』(鎌倉新書、一九八〇)、『現代葬祭仏教の総合的研究』(浄土宗総合研究所、二〇一二)、『図と写真で見る 知っておきたい基本的な法式作法』上(浄土宗、二〇〇五)、『法要集』
【参照項目】➡葬送儀礼、葬制、通夜、葬具、枕経、迎接式、三昧式、死装束、三帰三竟、下炬、引導二、要偈、血脈
【執筆者:岡本圭示】