食作法
提供: 新纂浄土宗大辞典
じきさほう/食作法
食事をするときに行う作法。浄土宗には三つの食作法がある。①朝食(小食)と昼食(正食)の二時に十仏名などを唱える二時食作法、②善導の釈文(音読・訓読)を奉読する食作法、③食前・食後の言葉がある。『つねに仰せられける御詞』には「人の命は食事の時、むせて死する事もあるなり。南無阿みだ仏とかみて、南無阿み陀仏とのみ入べきなり」(昭法全四九三)とある。 ①朝食と昼食の二回行うので二時食作法ともいう。僧侶が食事の際に行う作法。十仏名と呪願としての般若心経、食事の功徳を回向する呪願、食事に関する五つの観念、生飯作法、誓願、十念などを行い、食後は生飯台に生飯を施食する。初期経典には衣食住の生活規程があった。『中部経典』には、「汝比丘よ、汝は食に於て応に量を知るべし。正しく思惟して以て食を取れ。娯の為、誇の為、飾の為、荘厳の為にすること勿れ。応にこの身の存続の為、支持の為、害を止むる為、聖行を善く持ち得むが為にせよ」(南伝二上・三四九)とある。義浄『南海寄帰内法伝』一の「受斎軌規」にはインドと南海の斎会の正則と中国の現状を比較している(正蔵五四・二〇九上)。道宣『教誡新学比丘行護律儀』には、日常の作法として二時食法を六〇条、洗鉢法を一七条、護鉢法を一三条などに定めている(正蔵四五・八七一中)。また『四分律行事鈔』中・下では五観文を注釈している(正蔵四〇・八四上、一二八中)。『釈氏要覧』上の「中食」には、五観などを唱えることを記している(正蔵五四・二七四下)。『勅修百丈清規』六には日用規範を定めて「仏生迦毘羅 成道摩掲陀 説法波羅奈 入滅拘絺羅」(聞槌の偈)などを唱えている(正蔵四八・一一四四下)。『法要集』の食作法は、『諸回向宝鑑』二の「時食儀」を踏襲しているが、ここでは生飯偈を唱えていない(一五オ)。この二時食作法は多少の差異はあるが、各宗派でひろく行われている。 ②善導『観経疏』の釈文抜粋を音読または訓読する浄土宗独自の食作法。一つには「非時食作法」として非時食(夕食)のみに訓読する作法がある。二つには小食・正食の二時食作法に引き続いて釈文を音読する作法がある。本来一食または二食のみなので、非時食の作法はありえないとし、「薬石」と称して簡略な食作法を行っている。句頭が「導師の釈に曰く、先勧大衆発願帰三宝」と発声し、次に僧一が「同じく釈に曰く」といい、釈文を音読または訓読する。僧二・僧三と続き、最後に読み終わって「以上」といい、句頭が「同称十念」と発声し、食事をする。食後は「同称十念」のみを称える。 ③口語体の食作法。五重相伝はじめ檀信徒と共に食事をするときに唱える文。檀信徒が各家庭で唱えるために二時食作法の「五観」の主旨をわかりやすくした食事作法。「薬石」のときも唱えている。〔例一〕食前のことば「われここに食をうく、つつしみて、天地の恵みと人々の労を謝し奉る。十念。いただきます」。食後のことば「われ食を終りて、心豊かに力身に満つ、おのがつとめにいそしみ、誓って、御恩にむくい奉らん。十念。ごちそうさま」。〔例二〕食前のことば「ほんとうに生きんがために、今、この食をいただきます。あたえられたる天地の恵みを、感謝いたします。十念。いただきます」。食後のことば「十念。ごちそうさま」。〔例二〕は和語仏教を提唱した椎尾弁匡が考案し、食作法として「いただきます」と「ごちそうさま」を合掌して唱えるようにしたもの。
【参考】荒井覚超『真言宗食時作法解説』(高野山出版社、一九九二)、『現代語訳 南海寄帰内法伝』(法蔵館、二〇〇四)
【執筆者:西城宗隆】