規範
提供: 新纂浄土宗大辞典
きはん/規範
「かくあるべき」とか、「かくあるべからず」という、主体的な当為をもたらす、則るべき規則・判断や評価や行為などの拠るべき基準のこと。客観的に事実を扱う科学や社会事象に対して、主体的な当為・価値・法則を問題とする倫理・道徳・美学・宗教に関する態度と方法を持つ学問を規範的学という。J・ワッハ(一八九八—一九五五)は宗教研究の方法論について、規範的研究と記述的研究とをあげ、神学と宗教哲学とを規範的研究に位置づけた。この性格づけは、主体的性格を有する信仰実践(規範)と客観的性格の知識の体系(記述)との相対を意味している。法然を宗祖とする信仰宗団の学問としての浄土宗学は、ワッハのいうところの規範的研究の系譜に入る。『選択集』の劈頭に「往生の業には念仏を先とす」とあり、『一枚起請文』が「ただ一向に念仏すべし」と結語されていることなどは、法然が提示する信仰・実践的規範と言えるが、浄土宗学はこの規範が示す普遍的妥当性を明らかにすることを目的としている。浄土宗学は極めて具体的な規範的学としての特色を有している。
【参考】ヨアヒム・ワッハ著/下宮守之訳『宗教学』(東海大学出版会、一九七〇)、岸本英夫『宗教学』(大明堂、一九六一)、藤本淨彦『法然浄土教の宗教思想』「序論」(平楽寺書店、二〇〇三)
【参照項目】➡宗学
【執筆者:藤本淨彦】