五観
提供: 新纂浄土宗大辞典
ごかん/五観
食作法で唱える文。食事五観ともいう。「一には功の多少を計り彼の来処を量る。二には己が徳行の全欠多減を忖る。三には心を防ぎ過を顕すに三毒に過ぎず。四には正しく良薬を事とし形苦を済うことを取る。五には道業を成ぜんが為にして世報は意に非ず」。出典は道宣『四分律行事鈔』中三(正蔵四〇・八四上)。一つには、この膳になるまでに食物がいかに多くの労力と手間がかかっているかという人々の辛苦を思い、またこの食物がどこからどのようにしてもたらされたかという施主の恩を思う。二つには、果たして自分にその食事を受けるだけの徳が具わっているかどうかを考えてみる。三つには、美味云々という気持ちが出たならば、それは三毒煩悩より生じた心であるから、くれぐれも食事の味に執着しないようにする。四つには、食事は身を養い、命を保つための良薬としていただくものであり、飢渇を癒すためのものであると心得る。五つには、ただひたすらに仏道を成就するための食事であって、世間の名誉栄達などにまったく関係がないと観念する。道宣は『明了論』などを参考にしてこの五観の偈文を考案し、食作法中に取り入れた。五観文は多少の相違はあるものの、諸宗にわたって用いられている。注釈が『釈氏要覧』上(正蔵五四・二七四下)と『浄土苾蒭宝庫』下(五オ)にある。『釈氏要覧』上では、五観の作法を、「観は声を去れ」(正蔵五四・二七四下)とし、声に出さないことを本義としている。食作法では「呪願偈」を唱えた後に、句頭が「次に五観」と唱えて割笏を一打し、大衆が同唱する。檀信徒のための「食前のことば」は、五観の要旨を簡略にしたものである。
【参考】浅井覚超『真言宗食時作法解説』(高野山出版社、一九九二)
【参照項目】➡食作法
【執筆者:西城宗隆】