「大五重」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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おおごじゅう/大五重
『五重指南目録』および聖冏より浄土宗僧侶養成の制度の運営を一任された聖聡による五重の解説などをもとに、聖冏が取り決めた五十五箇条の伝目を相伝し、本来の浄土宗僧侶として具えるべき学識と信仰を習得する道場のこと。総五重ともいう。道誉貞把と感誉存貞による箇条伝法制定後は、箇条伝法と大五重が並存することとなり、『五重指南目録』によって指示されている五十五箇条伝目を相伝することを目的とした特別な伝法道場として位置付けされていった。近世初期には荒廃するが、近世中期からの伝法研究の興隆とともに復活することとなる。しかし、幕末期から明治にかけて再び荒廃したが、昭和一五年(一九四〇)に増上寺道場において林彦明による勧誡で復興し、同四三年と同四四年に増上寺道場と知恩院道場で岸覚勇による勧誡、その後、服部英淳や小沢勇貫による勧誡を経て、近年では藤堂恭俊や坪井俊映などが宗脈五十五箇条の勧誡を行った。特に増上寺の演誉白随や学誉冏鑑による大五重の復興、および昭和の土川善澂や林彦明などによる復興は極めて意義深く、現在の大五重はこれら二度の復興を基礎として成り立っている。また大五重に関する伝書類として、定誉随波の『総五重巻物次第』をはじめとして、義誉観徹の『総五重法式私記』、演誉白随の『三本書籍講談記』『総五重執行記』、学誉冏鑑の『大五重修業目録』『七日加行之総合日分』『総五重修行記』、薫誉在禅の『大五重選定略鈔』など、実に多数の伝書が作成されており、近世の伝法研究の内実は大五重研究であったといっても過言ではない。大五重における相伝内容は『五重指南目録』所説の、以下の五十五箇条の伝目である。
- 初重(四箇条および知残一箇条)
- 二重(三十七箇条および云残一箇条)
- 伝法要偈、初重二重機法不離之事、序正等一部始終一行三昧結帰之事、宗義行相文段分別二箇立処之事、一心専念文三重口伝、五正行文三重説相、一心専念文五義引証、五義引証一一細相事、九品三心念仏三心云事、多実少虚下註若可往生口伝、三心五字習事、浄土宗二字習事、竪三心必可次第・横三心一心即三心口伝、三心肝要習第二深心事、三心中第三心為体事、三心五念合釈口伝、奥図総別大意口伝、三心口伝、五念口伝、四修口伝、三種行儀口伝、至誠心口伝、深心口伝、回向発願心口伝、礼拝門口伝、讃歎門口伝、作願門口伝、観察門口伝、回向門口伝、恭敬修口伝、無余修口伝、無間修口伝、長時修口伝、尋常行儀口伝、別時行儀口伝、臨終行儀口伝、左手印右手印口伝、云残一箇条
- 三重(一箇条および書残一箇条)
- 本末口伝、書残一箇条
- 四重(二箇条および云残一箇条)
- 第五重(六箇条および書残一箇条)
これら五十五箇条の諸伝目を宗脈の諸伝目と比較すると、要偈道場における相伝内容の最も重要な箇所が、大五重の二重「伝法要偈」に対応する。次に浅学相承に関する内容では、大五重の初重の内容が「自証往生伝」に対応し、大五重の「五箇の伝」が第五重「五通五箇伝」に対応、大五重の「別口伝」および「気息伝」が第五重の「十念伝」および「気息伝」に対応する。碩学相承に関する内容では、大五重の「授手印伝」が二重「左手印右手印口伝」に、大五重の「総口伝」と「凡入報土口伝」が第五重「総口伝」および「凡入報土伝」に対応する。このように現行の箇条伝法における最重要な諸伝目は、いずれも大五重の伝目を根拠としており、箇条伝法は大五重の要点を簡略化したものといえる。また化他五重の諸伝目は浅学相承に関する内容を根拠として成立している。さらに「十念伝」ならびに添口伝の「亡識回向伝」が大五重の第五重「別口伝」および「傍人伝」に対応しており、化他五重の諸伝目も大五重を背景として成立していることが分かる。このように、現行の浄土宗において伝法として相伝されている諸伝目の根拠と背景に大五重が存在している。また、要偈・密室・化他が伝法である以上、これら諸伝法を伝目上も理論上も伝法として成立させているものが大五重である。
【資料】聖冏『五重指南目録』、聖聡『五重拾遺抄』、『無題記』、演誉白随『三本書籍講談記』、薫誉在禅『大五重選定略鈔』、現誉満空『三巻七書講義』、信誉巌宿『七巻書講録』、浄誉原澄『五重本末講義』、順阿隆円『吉水瀉瓶訣』
【参考】林彦明『五重大会勧誡講録』(千本山乗運寺、一九六七)、同『昭和新訂三巻七書』(林勧学古稀記念会、一九三八)、恵谷隆戒「近世浄土宗伝法史について」(『浄土教の新研究』山喜房仏書林、一九七六)
【執筆者:柴田泰山】