五種増上縁
提供: 新纂浄土宗大辞典
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ごしゅぞうじょうえん/五種増上縁
阿弥陀仏の極楽浄土へ往生するために念仏する者が、阿弥陀仏の本願力によって特別に受ける五種の勝れた功徳因縁のこと。滅罪増上縁・護念増上縁・見仏増上縁・摂生増上縁・証生増上縁の五。善導は『観念法門』で「経に依って五種増上縁義を明かす一巻」として説く。『観念法門』に「問うて曰く、仏一切衆生を勧めたまいて菩提心を発して西方の阿弥陀仏国に生ぜんと願ぜしめ、また勧めたまいて阿弥陀仏の像を造り称揚礼拝し香華供養し日夜観想して絶えざらしめ、また勧めたまいて専ら阿弥陀仏の名を念ずること、一万二万三万五万乃至十万せしめ、或いは勧めたまいて弥陀経を誦すること十五二十三十五十乃至一百十万遍を満ぜしむること現生に何の功徳をか得る、百年捨報の已後、何の利益かある、浄土に生るることを得んや、いなや」と問い、それに対して「答えて曰く、現生および捨報に決定して大功徳利益有り。仏教に準依して五種の増上利益の因縁を顕明せん。一には滅罪増上縁、二には護念得長命増上縁、三には見仏増上縁、四には摂生増上縁、五には証生増上縁なり」(浄全四・二二七下)と応答している。そのあとにそれぞれの増上縁について詳細に論じている。それらの内容は『無量寿経』『観経』『阿弥陀経』『般舟三昧経』『十往生経』『浄度三昧経』などの六経を典拠として、問いに対する答えの形式で、称名念仏を行じる者が得ることができる特有の五種類の利益を積極的に述べるものである。一に滅罪増上縁は現生滅罪増上縁とも言われ、『観経』の説く下品の人で「一生具に十悪の重罪を造る人」「一生具に仏法の中の罪を造り、斎を破し戒を破し仏法僧物を食用して慚愧を生ぜざる人」「一生具に五逆極重の罪を造り地獄を経歴して苦を受くること窮み無き罪人」は善知識の勧める念仏によって、また、『観経』の説く観想によって、「八十億劫の生死の罪を除く」(聖典一・三一一、三一二/浄全四・二二八上)ことができるとされる。二に護念増上縁は現生護念増上縁とも言われ、『観経』の説く第九・第一二観や『十往生経』『阿弥陀経』『灌頂経』『浄度三昧経』の説示を紹介し、「日別に弥陀仏を念ずること一万して畢命相続する者は即ち弥陀の加念を蒙りて罪障を除くことを得、また仏と聖衆と常に来たりて護念することを蒙る。既に護念を蒙れば即ち延年転寿長命安楽を得る」(浄全四・二二九下~三〇上)とされる。三に見仏増上縁は見仏三昧増上縁とも言われ、『観経』の韋提希夫人の所望と仏告、華座観想や真身観想などを紹介し「至誠心信心願心を内因と為し、また弥陀の三種の願力を以て外縁と為すによって外内の因縁和合するが故に即ち見仏することを得」(浄全四・二三二上)と説く。さらに、『般舟三昧経』『月灯三昧経』『文殊波若経』の説示を紹介している。四に摂生増上縁については、『無量寿経』の四十八願に説く願文は「是れ願往生の行人命終わらんと欲する時、願力摂して往生を得しむ故に摂生増上縁と名づく」(浄全四・二三三上)とされる。阿弥陀仏の四十八願にかかわる『無量寿経』のほかに『観経』第一一観などと『阿弥陀経』が紹介されている。五に証生増上縁は『観経』の説示を挙げながら「是れ仏滅後の凡夫、仏の願力に乗じて定んで往生することを得、即ち是れ証生増上縁なり」(浄全四・二三四上)とされる。また、『阿弥陀経』の六方段での教説に基づいて「上の六方等の仏の叙舌の如く定んで凡夫の為に証を作す。罪滅して生ずることを得。若し此の証に依って生ずることを得ずんば、六方の諸仏の叙舌ひとたび口より出て已後終に入口に還せずして自然に壊爛せんと此れ亦是れ証生増上縁なり」(浄全四・二三五下)とする。良忠の『観念法門私記』下では、前の三つは現世で受ける利益であり、後の二つは来世で受ける利益であると理解される。『観念法門』「五種増上縁義」を論述するに当たって善導は「謹んで釈迦仏教六部の往生経等に依って阿弥陀仏を称念して浄土に生ぜんと願ずる者の現生に即ち延年転寿することをえて九横の難に遭わざることを顕明す」(浄全四・二二七下)と断じている。一方で、善導は『観経疏』定善義の第九真身観で「光明遍照十方世界念仏衆生摂取不捨」の経文を親縁・近縁・増上縁の三縁釈によって捉える。このことと関連させると、増上縁について「衆生称念すれば、すなわち多劫の罪を除く、命終わらんと欲する時、仏、聖衆とともに自ら来って迎接したまう。諸の邪業繫、能く礙る者無し。故に増上縁と名づく」(聖典二・二七三/浄全二・四九上)と言うが、この説示を典拠と共に具体的に敷衍した内容が五種増上縁であるということができる。
【資料】『西宗要』五、『釈浄土二蔵義』二七
【執筆者:藤本淨彦】