「年中行事」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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ねんちゅうぎょうじ/年中行事
一年を周期として、暦や季節の推移、生産の過程に従って行われる行事。元は宮中での公事を年中行事と呼び、平安時代には清涼殿に年中行事が記された衝立が置かれ、告知されていた。年中行事は、時代、地域、社会集団などによって様々な展開を見せており、例えば家庭、学校、会社、寺院などにおいてもそれぞれの年中行事が行われている。また、農耕のサイクルにあわせた年中行事も伝統的に行われてきた。例えば、稲作の場合では、田の神をめぐって諸儀礼が行われるが、小正月の時期に豊熟を祈り作業過程の摸擬行為を行う予祝儀礼から始まり、種を播く際の儀礼、田植えの際の儀礼、収穫の際の儀礼などが行われる。仏教(寺院)においても年中行事が行われ、日本仏教共通の年中行事の主なものとしては、修正会(一月)、涅槃会(二月)、灌仏会(花まつり、釈尊降誕会、四月)、彼岸会(三月、九月)、盂蘭盆会(七月、八月)、成道会(一二月)、仏名会(一二月)などがある。また、浄土宗独自の年中行事としては、御忌会(一月、四月)、十夜会(一〇月、一一月)などがある。仏教年中行事は、対象からすれば仏・菩薩・諸天の縁日に因むもの、釈尊の記念日に関するもの、祖師の忌日にかかるもの、祖先を祭祀するものなどがあり、また機能・性格から見ると招福除災を祈願するもの、滅罪を志すもの、後生善処を願うもの、死者追善を期するものなどがある。また儀礼的形態からは、悔過・加持・講讃・転読・念仏・踊躍念仏・練供養などの種類がある。日本における仏教年中行事には、純然たる仏教思想だけに基づいて行われるのではなく、民間習俗と結びついているものがある。例えば彼岸は、太陽が真西に沈む春分と秋分の日とを中心とした七日間であり、往生極楽を願う良縁であるが、古くから死者の供養の機会でもあった。大同元年(八〇六)、恨みを持って死んで怨霊となったとされた早良親王(崇道天皇)のため、国分寺に命じて春秋七日間に『金剛般若経』の読誦を行ったという。そして明確な時期は不明であるが、一般の人々の間にも墓参などをして先祖を供養する風習が広がった。また農民の間では、太陽が真東から登り真西に沈み、昼と夜の長さが同じになる日ということから大切な節目と考え、「日願」あるいは「日天願」という太陽に対する祈りを捧げる日でもあった。そして、彼岸のあたりを農作業の切り替えの日とすることや、秋の彼岸には収穫を終え豊穣の感謝を先祖に捧げるなど、農耕儀礼との関連も見られる。また十夜会でも民間習俗との結びつきが指摘できる。十夜会とは旧暦一〇月五日から十日十夜にわたり修され、阿弥陀仏への報恩、自己の修善のための法要である。塔婆供養や諷誦文回向による先祖供養がなされることが多く、先祖の供養のため米を供物としてあげる習慣も広くある。これは十夜会が行われる時期が作物の収穫期に当たり、収穫感謝祭と農事を守護してくれる先祖に対する感謝のための先祖供養という意味が加わったものと理解される。
【参考】伊藤唯眞「仏教年中行事」(『仏教民俗学大系』六、名著出版、一九八六)、和歌森太郎「年中行事の歴史的位相」(『和歌森太郎著作集』一二、弘文堂、一九八二)、鷲見定信「十夜講と十夜法要」(『仏教民俗学大系』六、名著出版、一九八六)
【執筆者:名和清隆】