十界
提供: 新纂浄土宗大辞典
じっかい/十界
さまざまな差別相を持つ衆生の境界を、因果の隔別によって、一〇種に類別したもの。仏教教理を理解せずに、苦集因果(世間因果)を行ずる地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天の六道と、仏教理解の浅深は存するが、いずれも道滅因果(出世間因果)を行ずる声聞・縁覚・菩薩・仏の四聖を合して十界とする。この十界をさらに三悪道・三善道(あるいは四悪趣・人天)と二乗・菩薩仏の四類に分ける場合もある。智顗の天台三大部では、六道四聖の十界はいずれも法界にほかならないとして、十法界のいずれにも他の九法界(九界)を具するとする十界互具が主張され、とりわけ『摩訶止観』では、六道凡夫が起こす無明の一念心にも仏法界に及ぶ三千(十界互具の百界に十如是・三世間を乗じて三千とする)の一切法を具するとする、いわゆる「一念三千」が説かれた。この十界互具説によって、趙宋の知礼は如来性悪説を展開して、仏法界にも地獄界等の悪を具することを強調し、また『観経』の「是心作仏、是心是仏」(聖典一・二九八/浄全一・四三)や『維摩経』の「心浄則仏土浄」(正蔵一四・五三八下)の文を援用して、心具の仏法界を観ずる約心観仏を主張し、法然浄土教に対抗する必要を生じた日本天台の浄土思想に大きな影響を与えた。また、地獄などの六道四聖の相状は、源信『往生要集』の成立を契機とする末法・浄土思想の広まりを背景として、『今昔物語集』等の数多くの仏教説話に平易に叙述されただけでなく、十界図・六道絵などの図画に表され、これを解説する「絵解」を通じて、民衆に対する布教に用いられた。
【参照項目】➡一念三千
【執筆者:木村周誠】