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真言念仏

提供: 新纂浄土宗大辞典

しんごんねんぶつ/真言念仏

真言宗における念仏。平安中期以降、浄土往生信仰が盛んとなる中において、主に真言宗内において阿弥陀仏名号真言と同義に捉えて修されていた行法を、慧浄述『真言念仏集』(続浄一五、仏全七〇)や懐音編『諸家念仏集』(浄全一五)第六真言念仏などが真言念仏と表現した概念。円仁によって常行三昧が招来され、さらに末法思想と合わせ浄土信仰が盛んとなる中、顕密に広がりをみせた念仏行だが、本来真言密教においても極楽浄土への往生を目的とする行法、さらには六字名号を唱える称名念仏とは異なる形で、広い意味での念仏が存在していた。それらを時代の趨勢に合わせる形で注目したのが、平安末期の実範の『病中修行紀』や覚鑁かくばんの『五輪九字秘密釈』『一期大要秘密集』等である。これらの中に見られる曼荼羅観を基にした阿弥陀仏大日如来の観点から、真言称名念仏を同義と捉えた内容が、後に鎌倉時代道範の『秘密念仏鈔』(続浄一二、仏全七〇、『真言宗安心全書』二)によって確立される。「秘密念仏」という言葉が最初に確認できるのがこの『秘密念仏鈔』である。天台宗においても一四世紀に書かれた『渓嵐拾葉集』(正蔵七六)に秘密念仏の語が見られる。その後、浄土宗真宗称名念仏が広まりをみせたが、真言宗において念仏行が消え去ったわけではない。その流れを秘密念仏とは別に、浄土門からの表現として真言宗における称名念仏を『真言念仏集』や『諸家念仏宗』によって概念規定したものが真言念仏であると考えられる。また真言念仏秘密念仏と同じものとしてみる向きもあるようだが、言葉が成立した時代や書物は異なる。加えて現在の真言宗においては真言念仏の言葉はほとんど用いられず注意が必要である。


【参照項目】➡秘密念仏鈔


【執筆者:舎奈田智宏】