実範
提供: 新纂浄土宗大辞典
じっぱん／実範
—天養元年（一一四四）九月一〇日。「じちはん」「じつはん」とも読む。字は蓮光、本願。通称は中川少将上人、中川律師。藤原顕実の四男。幼少より出家し興福寺で法相を修めて、醍醐寺の厳覚に密教、高野山の教真に真言密教を学び、比叡山の明賢について天台を修めた。壮年期は大和国円成寺に隠棲し、諸所の学徳を尋ね修学に専心していた。大和中の川（奈良市中ノ川町）に金剛界の成身会になぞらえ成身院を開創し、真言・法相・天台の三宗を兼学し、戒律と浄土教をも並修する独自の学風を形成した。また、戒律復興を唱えて『四分律』の研究に励み、永久四年（一一一六）唐招提寺の堂塔を修理し、翌年東大寺戒壇院において三十余人に授戒した。保安三年（一一二二）興福寺の欣西の要請で『東大寺戒壇院受戒式』一巻を著し、鎌倉時代の戒律復興運動の端緒となった。晩年、東大寺の別所・山城国光明山寺に移り浄土教を信仰した。律宗中の川流の祖で、日本浄土教高祖六哲の一人。門弟には明恵、慶雅など。『四十八巻伝』五には、法然に偸蘭叉の読み癖を教え、密教の許可灌頂や鑑真相伝の小乗戒を授けたとあるが、これらの記事は『台記』に伝えられる実範の入寂時よりみて疑わしい。著作は、『大経要義抄』七巻、『阿字義』三巻。浄土教に関するものとして『往生論五念門行式』一巻、『病中修行記』一巻、『眉間白毫集』一巻などがある。
【資料】『台記』四、『律苑僧宝伝』一〇、『本朝高僧伝』五七
【参考】大屋徳城『日本仏教史の研究』（東方文献刊行会、一九二八）、堀池春峰『南都仏教史の研究 遺芳篇』（法蔵館、二〇〇四）、佐藤哲英『念仏式の研究』（百華苑、一九七二）、井上光貞『日本浄土教成立史の研究』（岩波書店、一九八五）
【執筆者：平間理俊】