往生論
提供: 新纂浄土宗大辞典
おうじょうろん/往生論
一巻。世親(婆藪般頭、天親ともいう)著。後魏・菩提流支訳。具さには『無量寿経優婆提舎願生偈』という。また『無量寿経論』『往生浄土論』『浄土論』と略称する場合もある。瑜伽行派の論師である世親が、浄土経典所説の浄土の理解と、その浄土への願生の意趣を述べたもの。浄土宗の所依の経論の一つ。著作年代は明らかでないが、訳出は『歴代三宝紀』九によれば普泰元年(五三一)、『開元録』六によれば永安二年(五二九)。本書は願生偈と長行の二部から構成されている。前者は韻文で五言四句二四行からなっており、世親自身の阿弥陀仏への帰依とその浄土への願生の意の表明(第一行)、経の真実を開顕しようとする造論の意趣(第二行)、観察の対象である三種二十九句の荘厳相(第三~二三行)、回向の句(第二四行)が述べられる。後者は願生偈の解説がなされる散文で、曇鸞『往生論註』の分科によれば願偈大意・起観生信・観行体相・浄入願心・善巧摂化・離菩提障・順菩提門・名義摂対・願事成就・利行満足の一〇章より構成され、五念門による阿耨多羅三藐三菩提の速やかなる成就を主題としている。本書はその大半が、観察の対象である三種二十九句の荘厳相(国土一七種・仏八種・菩薩四種)とその解説から構成される。世親が属していた瑜伽行派(唯識)において悟りを転依といい、現実世界の迷いの根源である阿頼耶識を転換して智を得ることをいう(転識得智)。この智が無分別智であるが、それは単に無分別であるだけでなく衆生を救済するために世間的になった姿の智慧である無分別後得智として働く。三種二十九句の荘厳相もこの無分別後得智であり、無の有の世界として説かれたものである。またこの浄土の荘厳相は、『解深密経』『仏地経』序品、『摂大乗論』等に説かれる十八円浄(円満)との近似性を有している。しかし、十八円浄は出出世善法の功能より生じたもので菩薩および仏の清浄自在唯識智を体とするのに対し、三種二十九句の荘厳相は願心の成就に基づいておりその性質は異なる。そして往生浄土のための行法として五念門(礼拝・讃歎・作願・観察・回向の五門)が説かれるが、その根幹となるのは作願・観察の二門であり、具体的には奢摩他・毘婆舎那の実践である。この奢摩他・毘婆舎那も瑜伽行であり、ある対象に対して心を集中して寂静なる状態となり(奢摩他)、その状態において法のすがたや性質を観察する(毘婆舎那)ことをいうが、これをもとに三種二十九句の荘厳相を観察する往生浄土のための行法としての五念門が構成されている。本書は菩提流支による訳出後、曇鸞によって注釈が行われ(『往生論註』)、これを主として中国・日本に大きな影響を与えた。特に浄土宗においては法然が三経一論と称して、本書をもって所依の論としており重視されている。
【所収】浄全一、正蔵二六
【参考】山口益『世親の浄土論』(法蔵館、一九六三)、武内紹晃他『浄土仏教の思想三・龍樹世親他』(講談社、一九九三)、小谷信千代『世親浄土論の諸問題』(東本願寺出版部、二〇一二)、大竹晋『新国訳大蔵経 釈経論部一八 法華経論・無量寿経論他』「解題」(大蔵出版、二〇一一)
【参照項目】➡三種二十九句荘厳功徳、十八円浄、五念門一、如実修行、如実修行相応、往生論註
【執筆者:石川琢道】