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瑜伽行派

提供: 新纂浄土宗大辞典

ゆがぎょうは/瑜伽行派

中観派とならぶインド大乗仏教の二大学派の一つ。Ⓢyogācāra。唯識思想は、紀元後三、四世紀頃インドに興った仏教思想であり、根本的には大乗の般若における空の思想を踏まえつつも、識の存在を認め、ヨーガの実践を重んじた仏教徒によって主張された思想である。玄奘はこれらの人々を瑜伽師と漢訳しており、この思想を唱え、継承した人々のグループを瑜伽行派、別名では識論者、あるいは瑜伽唯識派と呼び、彼らの唱えた教理を唯識思想という。『瑜伽師地論ゆがしじろんしゃく』には、唯識思想の起こりについて、「仏の滅後に意見の対立が起こり、多くの部派が互いに抗争した。事物は存在するという〈有見〉の見解に多くの者が執着した。それにより、龍樹が大乗の無相空教の立場から『中論』などをあらわし、空の思想を提唱し、また提婆などが『百論』などをあらわし、その思想をひろめた。しかし、それらによって世間の人達は、〈空見〉、つまり事物は存在しないとみる立場をとるようになってしまった。そこで無著むじゃく禅定を修し大いなる神通力を獲得して、弥勒みろくにつかえ、弥勒に請うて瑜伽唯識の論書を説示してもらった(趣意)」(正蔵三〇・八八三下)とある。唯識思想の組織的な発展は、唯識の祖とされ『瑜伽論』の著者と伝えられている弥勒によって興され、その教説を弟子無著が受け継ぎ、さらに無著の弟である世親せしんが大成し、これら三大論師によってなしとげられたといえる。無著世親以降の重要な論師に安慧あんね(ⓈSthiramati)、陳那じんな(ⓈDignāga)、無性(ⓈAsvabhāva)、護法(ⓈDharmapāla)などがいる。唯識思想を説いた経論としては、例えば『華厳経』『解深密経げじんみっきょう』などがあげられる。また弥勒などの論書をもって唯識思想が確立されている。中国において瑜伽行派の教えを継承した法相宗においてよりどころとする経論は、「六経十一論」と呼ばれており、次の如くである。『華厳経』『解深密経』『如来出現功徳荘厳経』『大乗阿毘達磨経』『入楞伽経にゅうりょうがきょう』『厚厳経』『瑜伽論』『顕揚聖教論』『大乗荘厳経論』『集量論じゅりょうろん』『摂大乗論しょうだいじょうろん』『十地経論』『分別瑜伽論』『観所縁縁論』『唯識二十論』『弁中辺論』『大乗阿毘達磨雑集論』。また唯識思想には阿頼耶識あらやしきせつ三性さんしょうせつといった独特な理論が存在する。


【参考】長尾雅人『中観と唯識』(岩波書店、一九七八)、袴谷憲昭『唯識思想論考』(大蔵出版、二〇〇一)


【参照項目】➡弥勒阿頼耶識三性・三無性法相宗唯識


【執筆者:薊法明】