棚経
提供: 新纂浄土宗大辞典
たなぎょう/棚経
一
盂蘭盆のときに菩提寺などの僧が檀信徒の家に赴き仏壇や精霊棚(盆棚)の前で読経すること。またその経。旧暦の七月、新暦の七月と八月、養蚕などと地域によって時期・行事などが異なる。棚行とも書く。盆には精霊棚に先祖・新亡・無縁仏の三種類の精霊が訪れるとされており、この棚の設置場所は地域によって種々ある。例えば、先祖の盆棚(本仏)は屋内、新亡の新棚(新仏)は前庭か軒先または縁側の一隅、無縁棚・餓鬼棚(無縁仏)は屋外または屋内の盆棚の片隅・棚下に設けることもある。現在は仏壇を盆棚とし、その前にござ・まこもなどを敷き、供物をあげることが多くなっている。その棚には、団子・そうめん・野菜・果物などを供え、器に水を入れて洗米や賽の目に刻んだ茄子などを浮かべ、棚経の僧が盆花(ミソハギなど)で水向けをする。盂蘭盆会は『盂蘭盆経』の経説に準じた法会であるが、檀信徒宅での棚経は盆中に無縁仏(餓鬼仏)に対し施餓鬼をして、先祖・新仏の回向をする法会である。棚経は施餓鬼会での「浄食加持偈」「五如来」「生飯偈」「授与三帰三竟」を唱えず、「変食陀羅尼」などを誦す簡略な盆施餓鬼といえる。七七日忌を過ぎていない新亡の場合は、翌年に新盆をする地域がある。盆棚は仏壇の原初形態とする説もある(「盆棚と無縁ボトケ」『伊藤唯眞著作集Ⅲ 仏教民俗の研究』法蔵館、一九九五、一二九頁)。
【参考】『増補俳諧歳時記栞草』下(岩波文庫、二〇〇〇)
【執筆者:西城宗隆】
二
盂蘭盆に際し檀信徒各家に出向し、精霊棚の前で新亡や先祖供養のために回向すること。『法要集』は、盂蘭盆会の式次第ではなく、施餓鬼会の略式の勤行法を規定している。『法要集』(昭和一四年版)は「棚経法」と称したが、現行は「棚経」と称している。差定は、奉請、懺悔偈、十念、破地獄偈、敬礼六位、変食陀羅尼、根本陀羅尼、餓鬼回向文、十念、開経偈、誦経、回向文、十念、摂益文、念仏一会、別回向、総回向偈、十念と定められている。
【執筆者:清水秀浩】