水向け
提供: 新纂浄土宗大辞典
みずむけ/水向け
1餓鬼に水を手向けること。焰口餓鬼に飲食を施す作法。施餓鬼会で変食陀羅尼を誦している間に、餓鬼棚の前に進み、ミソハギまたは樒などで水を撒く作法をいう。この作法は陀羅尼を誦すことによって、餓鬼に施す一食が無量の食となり、その飲食・水が計り知れない乳・甘露に変化して、餓鬼の咽喉を開き、飲食を多く取れて平等に満喫することができると念じて行う。「浄器に浄水を加え、少飯を盛り、右手を以って器を按じ、陀羅尼を誦し、…食を浄地の上に注ぐ」(諦忍『(盆供)施餓鬼問弁』一オ)ことをいう。享保六年(一七二一)五月一八日、増上寺は大施餓鬼の次第を定め、「四智讃、六奉請、散華、稽首釈迦、我等各為、三宝、陀羅尼(七遍、あるいは二一遍)、水向(此時御導師複座)」(月番日鑑四、月一・四『増上寺日鑑』二・二三九、文化書院、二〇〇二)などとした。ただし、『諸回向宝鑑』と『法要集』には水向けの作法を記していない。棚経では精霊棚に茄子を賽の目に切って洗米と混ぜたものを蓮の葉の上に載せて供え、水を入れた鉢を置き、ミソハギの束でその水を振り掛ける作法を行っている。2霊前に水を手向けることをいう。また水塔婆は回向した後に塔婆を川に流したり水をかける作法を指す。これを模して、施餓鬼会で餓鬼に飲食を施す作法に引き続き、塔婆にミソハギまたは樒の葉で水を振り掛ける作法をも俗にいう。大阪の四天王寺では、参詣者が経木を亀の井の水に投じ、長い柄の柄杓で水をかけている。『葬送習俗語彙』には、塔婆に水を向けて、その字が消えるまで行う例などを記している(一七六頁、国書刊行会、一九七五)。
【参考】「仏教民俗の研究」(『伊藤唯眞著作集』三、法蔵館、一九九五)
【参照項目】➡流れ灌頂
【執筆者:西城宗隆】