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法事讃

提供: 新纂浄土宗大辞典

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ほうじさん/法事讃

二巻。善導の著作五部九巻のうちの一つ。『阿弥陀経』にもとづいて浄土往生の行法を明かした書。『転経行道願往生浄土法事讃』(巻上首題)、『西方浄土法事讃』(巻上尾題)、『安楽行道転経願生浄土法事讃』(巻下首題・尾題)、『浄土法事讃』(中国トルファン出土写本の巻上尾題)ともいう。浄土宗では行儀分(儀礼書)に分類されている。撰述時期は不明であるが、引用されている『阿弥陀経』の六方諸仏の舒舌を讃偈文の中「十方」としていることから、唐・永徽えいき元年(六五〇)正月に玄奘によって漢訳され、十方諸仏の舒舌を説いている『称讃浄土仏摂受経』を念頭において撰述したとも考えられる。それが正しければ本書は永徽元年より後の成立ということになる。また比較的整えられている讃偈文の韻律からすると、まったく韻律配慮がなされていない『般舟讃』よりも後の成立と推察される。撰述意図も不明であるが、文中に「施主」「今の施主」「今日の施主」「我が施主」という表現が最初と最後に集中的に現れていることから、施主の依頼によって挙行され、施主功徳を積累するため行われる当日限りの別時儀礼として撰述されたのであろう。

本書の構造については、良忠の『法事讃私記』の科文浄全四・三四上)によれば、序分正宗分流通分に分類でき、さらに正宗分を行の大意・軌則・行法に細分解釈できるとする。その内容次第については、巻上は下巻の転経行道の前方便であり、奉請文、表白文にはじまり、道場荘厳、入浴、着衣、召請人と大衆威儀作法行道讃歎懺悔文などであり、主に奉請懺悔が説かれている。巻下は『阿弥陀経』を一七段に分けてそれぞれの経文に七言からなる讃偈文をはさみ、行道しつつ高座が経文を誦し、下座が讃偈文を誦して儀礼が行われる。このような経文と讃偈を交互に読唱する構造は、後の講経文を産出する雛形になっており、法会儀礼としての本書の側面が発揮されているのである。その後は懺悔文、行香行華あんげ讃歎礼拝供養行道散華の法が説かれ、高座と下座が互いに和讃(和声)を唱えあう。そして敬礼常住三宝、歎仏呪願、七礼敬がつづく。これらは智顗の『法華三昧懺儀』に酷似している。また『摩訶止観』や三階教儀礼との共通点も認められることから、善導の創始ではなく、隋から初唐にかけて行われていた儀礼を採り入れていたのは明らかである。また讃偈だけではなく、同時に懺悔も多く説かれていることも善導による儀礼の特色である。讃偈は外に向かって自己を超越した対象(阿弥陀仏)への信仰の表れであり、懺悔は内に向かって自己のありさまへの自覚の表明である。この両者を織りまぜて実践されるのが善導浄土教の実践に他ならない。

本書の特徴としては、中国詩の条件である押韻や平仄ひょうそくが配慮されていることと、句間に「願往生」や「無量楽」などの和讃(和声)を導入したことなどであり、これは後世浄土教儀礼に与えた影響でもある。大衆性だけではなく音楽性、娯楽性、そして文学性をも加味されているのが本書である。なお、浄土宗勤行や諸儀礼で唱えられる香偈三奉請還相回向偈送仏偈が抜粋されており、また浄土宗で用いる『阿弥陀経』の本文は、本書から抜粋したテキストを用いている。テキストは日本伝存系諸本のほかに西本願寺大谷探検隊が中国トルファンで発見した巻上の写本があり(中国国家図書館所蔵本)、『二楽叢書』一(一九一二)に翻刻されている。同じく善導の『往生礼讃』のテキストがそうであるように、日本における校讐を経ていない写本としてその存在は重要である。


【所収】浄全四、正蔵四七、続蔵一二八


【参考】服部英淳「善導大師の行儀分」(『浄土教思想論』山喜房仏書林、一九七四)、佐藤心岳「『法事讃』の研究」(佛教大学善導教学研究会『善導教学の研究』東洋文化出版、一九八〇)


【執筆者:齊藤隆信】