「四智」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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しち/四智
唯識で説く四つの智慧。すなわち大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智のこと。唯識思想では、眼・耳・鼻・舌・身の五識(前五識という)、意識(Ⓢmano-vi jñāna)、末那識、阿頼耶識の八識を説き、阿頼耶識を中心として、この八識によって凡夫の迷いの境涯を説明する。このような凡夫が有する識(Ⓢvijñāna)を仏道修行によって、仏の智慧(Ⓢjñāna)へと転換させることを転識得智といい、これが唯識における目標の一つである。転識得智の理論によると八識は①阿頼耶識②末那識③意識④前五識の四種に分類され、この四種の識がそれぞれ大円鏡智、平等性智、妙観察智、成所作智の四智に転換する。これら四智の内容は以下の通りである。①大円鏡智—Ⓢādarśa-jñāna。阿頼耶識が転じた智慧で、鏡のような智慧を意味する。あらゆる対象を、いかなる分別を加えることなくありのままに映し出す智慧である。②平等性智—Ⓢsamatā-jñāna。末那識が転じた智慧で、平等の性質を有した智慧を意味する。自己と他者の区別をせず平等のものとみなす智慧である。③妙観察智—Ⓢpratyavekṣ(aṇ)ā-jñāna。意識が転じた智慧で、観察する智慧を意味する。それぞれの衆生のあり方を個別に観察する智慧である。④成所作智—Ⓢkṛtyānuṣṭhāna-jñāna。前五識が転じた智慧で、なすべきことを実行する智慧を意味する。様々な衆生をすくい取るために働く具体的な智慧である。またこれら四智は、三身との関係で論じられることもあり、その場合には大円鏡智が自性身と、平等性智と妙観察智が受用身と、成所作智が変化身と対応する。唯識ではこの四智と法界清浄によって仏陀を説明し、これが密教の五智(四智に法界体性智を加えたもの)へと発展する。さらに密教では、五智が仏と対応して説かれる。その場合は、法界体性智が大日如来、大円鏡智が阿閦如来、平等性智が宝生如来、妙観察智が阿弥陀如来、成所作智が不空成就如来と対応する。法然は『選択集』三で、阿弥陀仏の四智や三身などの功徳はすべて名号に含まれていると理解する。
【資料】『仏地経論』三・七、『摂大乗論』彼果智分
【参考】長尾雅人『摂大乗論 和訳と注解』下(講談社、一九八七)、広沢隆之『「唯識三十頌」を読む』(大正大学出版会、二〇〇五)
【執筆者:石田一裕】