「錫杖」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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しゃくじょう/錫杖
一
僧侶の持つ杖。比丘の常に携帯すべき十八物の一。智杖、徳杖ともいう。錫杖は、杖頭部(錫)、木柄部、石突(鐏)の三部からなり、杖の先端に金属の鐶をつけ、これに小形の鐶を通したもの。この杖を突いたり、振ったりして音を出す。地蔵菩薩の持物の一つ。所用の目的は主に①乞食するために門戸の前で振る。②不殺戒を持つために蛇や毒虫を追い払うのに、杖を突きながら音を出して歩む。③病気・高齢の場合に身を拄えるために用いる。これに長短二種があり、長いものは行乞用のほか、能化の葬儀式に祭壇前の荘厳として、六物・経巻・伝書などと共に飾られる。このとき網代笠と対で立てかけられることも多い。柄の短い錫杖は、「手錫杖」ともいい、修験道などで読経の調子を整えるために振ったり、声明の「錫杖」のときに唱えながら振ったりする。朱塗の杖については、緋衣・緋紋白の法服同様に高僧用として用いられ、また西国札所会や四国霊場会では先達用に特認されている。
【資料】『大乗比丘十八物図』(仏全七三・四五七)
【参照項目】➡十八物
【執筆者:清水秀浩】
二
四箇法要の最後の曲。三条錫杖ともいう。円仁の将来した五箇秘曲の九杖錫杖の第一、第二、第九を一曲としたのが三条錫杖である。「手執錫杖 当願衆生 設大施会 示如実道 供養三宝 設大施会 示如実道 供養三宝 以清浄心 供養三宝 発清浄心 供養三宝 願清浄心 供養三宝 三世諸仏 執持錫杖 供養三宝 故我稽首 執持錫杖 供養三宝 故我稽首 執持錫杖 供養三宝」。錫杖は、比丘十八物の一つで、行乞のときはこれを振り鳴らして人を呼び、遊行のときは禽獣毒蛇などを避けるために音を出した法具である。この錫杖の音に、苦しみを離れ、仏道を進める働きがあるとの意味合いからこの声明が唱えられ、錫杖を振るのである。錫杖を手に執り、清浄な気持ちで、三宝に供養し、修行すれば、きっと悟りへと進んでいけるとの思いで唱え修するのである。この偈の出典は『八十華厳』一四の「手執錫杖 当願衆生 設大施会 示如実道」(正蔵一〇・七〇下)であり、それ以下は古徳の作である。『四十八巻伝』九では法然も仙洞御所での如法経において錫杖を唱えている(聖典六・九六)。現在の知恩院では、一二月の勢観忌に唱えられる曲である。『浄土宗声明集』(知恩院、一九八六)には、「以清浄心」以下を省略し記載している。
【執筆者:大澤亮我】
三
四箇法要で錫杖を振りながら唱える縁山声明。「手執錫杖 当願衆生 設大施会 示如実道 供養三宝」。平調・出音宮。四箇法要では梵音の次に唱える曲で、四箇法要以外でも唱えることがある。「設」より大衆が同音する。この曲は音の変化があり、技巧を要する奥伝の声明。切当、切押、ナヤシ押、イロ当、二重ユリ、三段上リ、小ユリ三段上リなどの独特の旋律型があり、「供養三宝」は錫杖を振りながら唱える。四智讃と共に縁山声明の粋を集めた代表的な声明。『声明』(天和三年)と『法要集』(明治四三年版)には、「以清浄心供養三宝」等の偈文を掲載しているが、現在は唱えられていない。
【参考】『縁山声明集』(増上寺、一九八九)
【執筆者:西城宗隆】