授記
提供: 新纂浄土宗大辞典
じゅき/授記
一
仏典に関する解説・区別・説明等の意。仏典を形式・内容によって分けた九分教や十二分教中の一つ。記別ともいう。元来、授記はこうした意味・用例が中心であったが、後に仏によって説かれる「事前に行われる将来の解説」、つまり「予言」的な意味へとその語の示す範囲が拡大していく。
【参考】水野弘元『仏教要語の基礎知識』(春秋社、一九九〇)
【参照項目】➡十二分教
【執筆者:中御門敬教】
二
仏が修行者に対して将来の「成仏の確約」(記)を与えること(授)。成仏のための基本的条件である。原語はⓈvyākaraṇaⓅveyyākaraṇa。音写語は毘耶佉梨那、和伽羅那、和羅那。訳語は受記、受授、授決、記別、記莂、記説、記など。授記思想は前世物語と繫がり、広く仏典に見られる。起点としては燃灯仏授記説が知られている。この思想は誓願説との関係が深い。誓願の実行によって、将来、仏ともなり得る偉大な功徳が具わることを証明するために授記思想は生まれた、とも言われる。また、その広範性のゆえ一口に整理できるものではなく、授記の授与者と拝受者、確約内容(成仏の確約、独覚の確約等)についても系統の違いがある。授記を説く代表的な題材としては「燃灯仏授記物語」、説明としては『大乗荘厳経論』が知られる。特に「燃灯仏授記物語」は多くの仏典に含まれている。そのうち『ジャータカ』因縁物語の所説は以下の通りである。はるか以前にスメーダというバラモンがいた。成仏の意志堅固な彼は、燃灯仏のために泥土に自らの髪を敷き、燃灯仏の歩行を容易ならしめた。この様子をつぶさに観察した燃灯仏はスメーダの仏道修行に感心し、将来の成仏を確約したという。その確約通りに、彼はカピラヴァストゥの浄飯王のもとに生誕し、その後に釈迦仏となるのであった。つまりスメーダは釈迦仏の前世者である釈迦菩薩であった。授記の分類については『大乗荘厳経論』功徳品(梵本vs.35-37)を参照のこと。①人差別授記(未発心授記、已発心授記、現前授記、不現前授記)と②時差別授記(有数時授記、無数時授記)に二分される。そのうち人差別授記では、拝受者の発心の有無、拝受形態が仏前か否かに分類される。さらに拝受者が授かる授記内容について①仏国土②何時③仏名④劫の名前⑤眷属⑥正法存続期間の六つが示される。浄土教と授記思想の関係は、『無量寿経』や『観経』に見出せる。『無量寿経』冒頭の「五十三仏」の段には、燃灯仏→乃至世自在王仏→法蔵菩薩→阿弥陀仏と連なる授記の系譜が説かれ、燃灯仏と釈迦菩薩の関係が世自在王仏と法蔵菩薩の関係に置換されている。『観経』真身観文には諸仏の現前授記、経典末尾には五百侍女に対する授記が説かれる。義山『観無量寿経随聞講録』によると、前者は成仏授記・往生授記の二説(浄全一四・六二一)、後者は往生授記(浄全一四・六九四)とされる。
【参考】藤田宏達『原始浄土思想の研究』(岩波書店、一九七〇)、香川孝雄『浄土教の成立史的研究』(山喜房仏書林、一九九三)、平岡聡『説話の考古学—インド仏教説話に秘められた思想—』(大蔵出版、二〇〇二)
【執筆者:中御門敬教】