寺院建築
提供: 新纂浄土宗大辞典
じいんけんちく/寺院建築
寺院の境内に立地する建物の総称。仏教建築とも呼ばれる。仏堂をはじめ、塔、門、鐘楼、経蔵などがあり、さらに講堂、食堂、庫裡といった僧侶の修行や寝食の場となる建物も含まれる。日本に現存する最古の寺院建築は法隆寺西院の金堂・五重塔・中門・回廊(国宝)である。その建立年代には諸説あるが、いずれも七世紀後半の造営と考えられている。七世紀後半から江戸時代までの寺院建築の歴史は、その意匠や構造にみられる様式の変遷、あるいは仏堂の建築的な構成の変化などの観点から理解されている。平安時代においては密教の進展が仏堂の構成に変化をもたらした。それまでは仏を祀るための壇が堂内の大部分を占めたのに対して、平安時代には仏を祀る内陣の前方に礼堂(外陣)が設けられ、いくつかの空間があわさって一つの屋根が架けられる堂が登場した。堂内を内陣と外陣に分ける形式への発展は、複雑化・多様化した法会に対応するために、いくつかの空間が参加者の身分や階層、法会の種類などに基づいて使い分けられたことに関わると考えられている。
鎌倉時代には大仏様および禅宗様という中国宋の建築様式(中国福建省近辺が源流とされる)が日本に移入され、寺院建築の大きな転換点となった。大仏様とは、源平の合戦で焼き討ちにあい主要伽藍を焼失した東大寺の復興事業(大仏殿再建を中心とする)に際して、大勧進職・俊乗房重源が採用した建築技術で、東大寺南大門(国宝、正治元年〔一一九九〕)や播磨浄土寺浄土堂(国宝、建久三年〔一一九二〕)が現存する代表例である。禅宗様は禅宗寺院で用いられた建築様式で、北条時頼によって開かれた鎌倉の建長寺を規範として全国に普及した。禅宗様の造形は知恩院三門(国宝、元和七年〔一六二一〕)や増上寺三解脱門(国重要文化財、同)にもみることができる。大仏様と禅宗様の寺院建築に対して、従来からの建築技術を用いた建物を和様と呼ぶ。大仏様、禅宗様、和様は中世以降の寺院建築を体系的に分類するための学術用語である一方、江戸時代の建築技術書にはそれぞれ天竺様、唐様、日本様などの言葉が使われていた。しかしこれらの古語と学術用語の意味する内容は必ずしも一致しない。また実際の寺院建築の造営では禅宗様と和様の要素が組み合わされることも多く、そのような建築を折衷様と呼ぶ場合がある。例えば知恩院御影堂(国宝、寛永一六年〔一六三九〕)には禅宗様と和様の両者の特徴がみられる。
鎌倉新仏教と呼ばれる各宗派(浄土宗、浄土真宗、日蓮宗、時宗等)で現存する建物には、本堂の平面や意匠において各宗派特有の形式がみられる。しかし、その普及が広く進展したのは近世になってからである。現存する中世の浄土宗本堂は、岩津信光明寺観音堂(国重要文化財、文明一〇年〔一四七八〕)のように禅宗仏殿の形式に倣ったものから、天台・真言宗寺院本堂の形式に従うものまであり、いまだ宗派独自の建築形式が定まっていない。一六世紀末から一七世紀初頭の現存する本堂には浄土宗独自の建築形式の定着が認められる。多数の建物が現存する末寺の本堂についてみれば、次のような共通する傾向が指摘されている。①方丈風の間取りで角柱を用い、組物をほとんど用いない簡素な邸宅風の印象が全体として強い。丸柱に組物や彫刻を用いた仏堂風の意匠は内陣に限定して施される。②内陣の両側の脇陣が拡大し畳が敷き詰められ、外陣も間仕切りを簡略化し、全体として明るく開放的な礼拝空間が形成される。このような浄土宗本堂の変遷は、庶民の信徒が増大し、外陣のみでなく内陣両脇も信徒に開放することによって進展したと理解されている。一方、宗派独自の形式を持たなかった中世の浄土宗本堂から、江戸時代初頭の形式の確立にいたる要因や変遷過程は、室町時代末期から桃山時代初頭の現存する建物をほとんど残さないこともあって、現在でも明確な系譜は説明されていない。旧御影堂である知恩院勢至堂(国重要文化財、享禄三年〔一五三〇〕)ないしは浄土諸宗に含めて考えられる時宗の南北朝時代に造営された尾道西郷寺本堂(国重要文化財、文和二年〔一三五三〕)や宇治万福寺本堂(国重要文化財、応安七年〔一三七四〕)に類似の形式が見出せることから系譜を求める説、また禅宗方丈からの影響あるいは禅宗方丈と源流を同じくするという観点が提示されている。
【参考】太田博太郎『日本建築史序説』(彰国社、一九四七)、桜井敏雄「鎌倉新仏教仏堂平面の成立と系譜に関する研究」(東京大学学位論文、一九七七)、京都府教育庁文化財保護課編『京都府の近世社寺建築 近世社寺建築緊急調査報告書』(京都府教育委員会、一九八三)、山岸常人『中世寺院社会と仏堂』(塙書房、一九九〇)、岡野清「近世初期浄土宗本堂の研究 近世浄土宗本堂の研究(一)」(『日本建築学会計画系論文報告集』四二五、一九九一)【図版】巻末付録
【参照項目】➡伽藍、経蔵、庫裡、講堂、金堂、山門一、鐘楼、大殿、七堂伽藍、東司、仏塔、本堂、御影堂
【執筆者:中村琢巳】