地蔵菩薩
提供: 新纂浄土宗大辞典
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じぞうぼさつ/地蔵菩薩
Ⓢkṣtigarbhaの訳語。Ⓢkṣtiは大地、Ⓢgarbhaは蔵・胎の意味。『大方広十輪経』二に「よく善根を生むこと大地の如し」(正蔵一三・六八六下)とあるように、大地に匹敵する広大な功徳を胎とする菩薩。その他、地蔵菩薩を説く経典として『地蔵十輪経』『地蔵本願経』『占察善悪業報経』(地蔵三経)が知られる。弥勒が出現するまでの無仏世におけるその代役。特に六道輪廻の中でも地獄に苦しむ者を抜苦与楽する代表的存在。『沙石集』二に「地蔵薩埵ハ慈悲深重ノ故ニ、浄土ニモ居シ給ハズ。有縁尽ザル故ニ、入滅ヲモ唱給ハズ。只悪趣ヲ以テ栖トシ、罪人ヲ以テ友トス」(『沙石集』〔『日本古典文学大系』八五、一〇四頁、岩波書店、一九六七〕)とある。教化の対象者に応じて無尽の変化を出すことでも知られる。起源についてはインド内起源説が有力である。ただしその信仰初期の考古学的遺物はインドに多く残されていない。空間を胎とする虚空蔵菩薩と対になり、両者とも密教化の兆しを含む「大集経」に主要経典が分類される。事実、後に密教において地蔵は胎蔵界曼荼羅の北方地蔵院を構成し、虚空蔵は西方虚空蔵院を構成するなど独自の立場を築く。その信仰は中国、日本において特に興隆する。唐・道世の『法苑珠林』には、晋代にはすでに地蔵信仰が知られ、唐代に至るまでに観音・弥勒・阿弥陀と並んで信仰対象となっていたと記述される。続く唐代が最も盛んに信仰され、特に十王信仰と結びつき、『預修十王生七経』などが撰述される。この信仰が日本に伝わり、地獄への恐怖を解消するものとして広く民衆に浸透する。『地蔵菩薩発心因縁十王経』においては、十王各々に仏教の尊格を本地仏として置くなど独特の発展を見る。また六道を巡って衆生を済度する姿から、六地蔵信仰も活発となった。子供の供養・守護尊としても有名である。様々な名称をもった地蔵尊が各地に造られ、地域性の高い信仰を持つ。形像としては、剃頭し宝珠や錫杖を手にした比丘形が一般的である。路地や辻、墓地の入り口にある地蔵尊の多くは立像である。すぐさま救済に駆け参じる姿を象徴したものとも考えられる。
【参考】速水侑『菩薩 仏教学入門』(東京美術、一九八二)、桜井徳太郎編『地蔵信仰』(『民間宗教史叢書』一〇、雄山閣出版、一九八三)、小峰弥彦・伊藤尭貫「一三 虚空蔵・地蔵部」(勝崎裕彦他編『大乗経典解説事典』北辰堂、一九九七)、小澤憲珠「地蔵菩薩の現世利益」(『大正大学研究論叢』一二、二〇〇五)
【執筆者:中御門敬教】