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象徴

提供: 新纂浄土宗大辞典

しょうちょう/象徴

ある事物や状態、また私たちが目にすることが不可能な実在や理念などについての意味内容を思い浮かべさせる媒介手段となるもの。一般的には記号や言葉などの抽象的な人工物、自然の事物によってあらわされる。例えば、仏教では蓮の花という自然物を用いて「涅槃」を示す。しかし、蓮の花自体は「涅槃」そのものではなく、あくまでも仏教の「涅槃」を象徴的に表現したにすぎない。言い換えれば、蓮の花のもつ具体的なイメージによって仏教徒は「涅槃」に対するイメージ・認識に導かれるのである。もちろんこれは蓮の花がもつイメージと「涅槃」のイメージに類似性が見出せるからこそ成り立つ関係であり、例えばハイビスカスの花と「涅槃」のイメージとの間に類似性を見出す人はあまりいない。象徴とはあくまで社会的にそして慣習的に承認されて成立するものであることを考えれば、ハイビスカスの花は仏教における「涅槃」の象徴とはなりえず、「涅槃」といえばやはり蓮の花がふさわしい。象徴をもつのは人間だけであり、それだけに、象徴とは何であるかを考えることは人間の根源を考えることに通じる。そして、この「象徴」が数多くみられるのが宗教であることは、宗教が人間の根源に触れるものであることを示しているといえるだろう。「涅槃」は私たちが生きる現実世界では不可視なものである。それはこの世の彼方に存在するものであり、私たちはそれを見ることもできなければ触れることもできない。しかし、「蓮の花」を通して私たちはこの現実世界の感覚的限界を超え、「涅槃」の一端に触れることが可能となる。象徴はこのように、この世の彼方にある聖なるものを現存するものとして私たちに捉えさせる作用をもつのである。


【執筆者:山梨有希子】