奠茶
提供: 新纂浄土宗大辞典
てんさ/奠茶
茶を献じること。転じて、表葬式で脇導師(奠茶師)が霊前に茶を供養する儀式。白木の茶湯器で供える。『無量寿経』に説かれる四事供養の湯薬にあたる。仏教と茶との関係は中国仏教に見え、飲茶の風習が儀礼的に行われたのは仏教寺院が初めてである。飲茶の風習は仏教の東漸とともに、茶の原産地ミャンマー方面より雲南に、そして中国南部に伝わった。戦国時代、特に呉は仏教国で、呉王孫皎は、仏教寺院で不飲酒戒を守らせるために飲茶を奨励した。日本には入唐僧の最澄・空海によって唐の喫茶の法が伝承された。鎌倉時代、栄西が茶を長寿の薬と考え、中国宋代の茶の文化・抹茶の法式を伝えた。日本の禅家では茶のもつ覚醒作用が座禅を修行する際に睡魔を払い、また不飲酒戒を守らせるものとして「喫茶の法」が重要とされた。利休の茶湯精神が宣明された立花実山の『南方録』に「茶を点て、仏にそなえ、人に施し、吾も飲む」とあるように、仏祖・新命・大衆に茶をすすめる仏事が点茶・点湯であり、葬送のおりに新亡に茶をすすめる仏事が奠茶・奠湯である。中国の湯は嗜好性のある果実類を煎じたものであり、日本の禅家では蜜湯もしくは砂糖湯を代用する。法要が午前中であれば先湯後茶に供え、午後の場合は先茶後湯で、現代は先湯後茶である。浄土宗の法式では奠湯の次に行う作法であり、献茶の作法をしてから、奠湯と同様に行う。まず中啓を持って起立し、導師の前に進み、導師に奠湯師と同時に問訊する。祭壇正面に進み、机上に中啓を置き、焼香し合掌意念する。向かって左側の茶湯器を台ごと取り、香煙に薫じ、茶湯器の蓋を少し開けて、一打して蓋を閉じ、捧げ持って意念する。元の場所に供え、蓋を開けて左側に掛け置く。中啓を香煙に薫じる。左斜め(自席側)に三歩下がる。右手を金剛拳に結んで左腰にあて、中啓で一円相を描く。中啓を胸の前に斜めにして持ち、「奠茶の文」を唱える。中啓を襟に差し、低声で十念を称える。中啓を持ち、再び祭壇の正面に進み、中啓を机上に置いて、合掌意念する。中啓を持ち、導師の前に下がり、導師に問訊し、自席に戻る。奠茶の文は、通常、序辞と水に関する経文一句から構成される。序辞は経文の導入のためにとなえ、例えば「心を洗う甘露の水 目を悦ばす妙華の雲 作麼生か 奠茶の一句」などと唱える。奠茶の一句には「以諸法薬 救療三苦」や「八功徳水湛然盈満」などを用いる。
【参考】桑田忠親『日本茶道史』(河原書房、一九五八)、村井康彦「茶の文化」、「茶の湯の思想」(『茶道聚錦』一、小学館、一九八七)、谷端昭夫『茶道の歴史』(淡交社、一九九五)、永島福太郎『茶の古典』(同、一九六九)
【参照項目】➡奠湯
【執筆者:渡辺俊雄】