六重二十二件五十五の法数
提供: 新纂浄土宗大辞典
ろくじゅうにじゅうにけんごじゅうごのほっすう/六重二十二件五十五の法数
聖光の著作で、五重相伝中の二重伝書でもある『授手印』の構成を端的に表現したもの。「六重」とは、①五種正行②助正二行③三心④五念門⑤四修⑥三種行儀の六種で、『授手印』はこの順序で構成されている。「二十二件」とは「六重」の内容を細説したものであり、①五種正行の五件②助正二行の二件③三心の三件④五念門の五件⑤四修の四件⑥三種行儀の三件を合計した数を指示するものである。「五十五法数」とは、『授手印』の記述にしたがって「六重」の内容を解説したものであり、『授手印』では①五種正行に六項目②助正二行に二項目③三心に三〇項目④五念門に五項目⑤四修に九項目⑥三種行儀に三項目の教義的な要点が説示されており、これらの合計の数を指示するものである。すなわち①五種正行の六項目とは、『選択集』二にも説示されているように、『観経疏』所説の五種正行を細分化した、読誦・観察・礼拝・称名・讃歎・供養の六種の実践行のこと。②助正二行の二項目とは、助行と正行の二種の実践行のこと。③三心については、まず至誠心に三種の四句分別、深心に二種の四句分別、回向発願心に二種の四句分別があり、これらを合計すると二八項目となる。これに横の三心と竪の三心の二項目を加え、合わせて三〇の法数となる。④五念門の五項目とは、礼拝・讃歎・作願・観察・回向の五種の実践行のことであり、『授手印』では讃歎門を本願称名念仏として理解している。⑤四修の九項目とは、『往生礼讃』前序に説かれている恭敬修・無余修・無間修・長時修の四項目、および恭敬修に関する『西方要決』所説の五項目を合わせたものである。⑥三種行儀の三項目とは、尋常行儀・別時行儀・臨終行儀のことである。『授手印』の「六重」の内、①五種正行および②助正二行の典拠は『観経疏』、③三心④五念門および⑤四修の典拠は『往生礼讃』前序、⑥三種行儀の典拠は『往生要集』に求めることができる。良忠の『領解抄』によれば、五念門は『往生論』を典拠としており、四修は『往生礼讃』と『西方要決』に見ることができるが、もともとは『摂大乗論』の内容がその源であり、三種行儀はおおよその内容は『往生要集』にあるものの、個々の詳細は善導の『観念法門』に拠っていると指摘している。なお、聖光は『授手印』で五念門を説示する際に、作願門と観察門の順序が入れ替わった『往生礼讃』前序説示の五念門を提示していることから、そもそもの五念門は良忠が指摘するように『往生論』が典拠であるが、聖光の場合は『往生礼讃』前序が直接の典拠となっていると考えられる。ただし奥図では『往生論』説示の五念門が提示されている。『授手印』では、これら六重二十二件五十五法数のすべてが、奥図において結帰念仏一行三昧、つまり本願称名念仏一行の実践において結実かつ集約されることを明示している。
【資料】『領解抄』、『伝心抄』、『疑問抄』、『五重口伝鈔』、観徹『総五重法式私記』、在禅『大五重選定略鈔』、智願『三本書籍講談記』
【執筆者:柴田泰山】