香衣
提供: 新纂浄土宗大辞典
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こうえ/香衣
香木の煎汁によって染めた衣。木蘭樹の香気のある樹皮で染めたもので(『四分律刪繁補闕行事鈔』正蔵四〇・一〇五下)、この色を香色・木蘭色ともいう。『三縁山志』七では、乾陀色という壊色で、黄衣・紅衣とも書いた。今は緋紫色を除いた色衣を香衣としている(浄全一九・四一〇下・四一一下)。『啓蒙随録』では、勅許の色衣で、紫・緋衣以外を通じて香衣としている。ただし、藍色の浅深を除くとしている(二・二七オ)。天正三年(一五七五)九月の知恩院浩誉に下された綸旨(毀破綸旨)は、諸国門下の出世および香衣願いをすべて知恩院より奏聞すべしとし、他山よりの執奏を破毀した(『知恩院史』一二〇八、知恩院、一九三七)。香衣は勅許を得た者だけが着用できることとなった。同一一年、存応の香衣綸旨には「香衣を着けて参内せしめ、宜しく宝祚延長を祈り奉るべし。者、天気に依って執達件のごとし」(「正親町天皇綸旨」『増上寺史料集』一・一九)とある。香衣綸旨を持つ僧の住持する寺は香衣地といい、服制から香衣地檀林などと呼称する寺格ができ、檀林の中で紫衣檀林と香衣檀林を区分した。『浄土宗鎮西派規則』(明治九年三月)第二章・第七条法服制度之事では、衣に如実(青黒木蘭)と荘厳(緋紫香)があるとし、僧正が緋、諸山一等二等檀林が紫、三等檀林・老分・別当・一字已下が香であったのを更定して、正権大教正は緋衣、中教正已下権少教正已上は紫衣、大講義已下権訓導まで香衣とし、許状によって着用できるとした(三四オ)。『浄土宗制規類纂』(明治三一年一一月)の僧侶分限規則では、大僧正は緋衣、正僧正・権僧正は紫衣、大僧都・権大僧都・少僧都・権少僧都は香衣、教師補・讃衆は木蘭衣としている(一九八、浄土教報社)。『浄土宗日常大全』制規抄(昭和五年)の法服条例では、衣の色を緋・紫・松襲・萌黄・黄色とした(四八二、浄土教報社)。『浄土宗制規類纂』(五〇一、教学週報、昭和一〇年八月)では、香衣が削除され色名になった。『浄土宗宗制』(昭和一六年七月)では、衣の色を緋・紫・松襲・萌黄とした(一一三、浄土宗務所総務局)。現行の「僧侶分限規程」では、法衣の色を緋色(緋衣)・紫色(紫衣)・松襲色・萌黄色とし、香衣の語彙がなく、香衣を制定していない(宗規三四)。
【参考】『古事類苑』一〇・宗教部二、一一九六
【執筆者:西城宗隆】