禅
提供: 新纂浄土宗大辞典
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ぜん/禅
心を静めさまざまな妄念や悪念をやめ(止)、ひたすら世間の真実を観察し(観)、恒常的な平安(定)と正しい事物・道理への判断(慧)を得ること。ⓈdhyānaⓅjhānaの音写の略。ほかに禅那、駄衍那などの音訳、定、静慮、思惟修習、棄悪、功徳叢林などの意訳がある。さらに三昧(Ⓢsamādhi)、等至(Ⓢsamāpatti)などほぼ同義に使われた用語も存在する。原始仏教の経典に、すでに色界における四段階の禅定(四禅)が規定され、無色界の四種の禅定が加えられて八等至とされた。さらに、もっとも深い禅定を滅尽定として九次第定の説も生まれた。大乗仏教の経論では禅を六波羅蜜または十波羅蜜の一つとし、菩薩の修習すべき要行であると定めた。これらの禅思想を統合して体系化し、『摩訶止観』や『法華玄義』で独自の教理的発展を行ったのが、中国天台宗の智顗である。一方、禅を菩提達摩(達磨)より伝えられたものと主張する仏教教団も、唐代において発展した。その中で、神会は、中国禅の基調を坐禅に固執せず、日常の作務などによって人に悟らせるべきであると示した。のちに、懐海は教団生活の規則である清規を制定し、禅宗教団の真の独立を果たした。また日常の修行生活の中で行われた禅問答によって作られた禅語録が数多く残され、公案として禅の宗旨が定型化した。宋代以降になると、禅浄一致の思想による念仏禅が盛んになった。その代表は延寿、飛錫、袾宏などである。このような念仏禅は、江戸時代の日本に伝来した黄檗宗の基本的な主張でもあった。後世において、禅は修行の手段としてのみならず、文化的な面において社会の多方面に浸透し、書道、絵画、茶道など数多くの禅文化を生み出した。
【参考】田中良昭『禅学研究入門・第二版』(大東出版社、二〇〇六)、小川隆『神会・敦煌文献と初期の禅宗史』(臨川書店、二〇〇七)
【参照項目】➡禅宗
【執筆者:林鳴宇】