「三縁」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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さんねん/三縁
念仏する者だけが阿弥陀仏の光明に摂取されて、親縁・近縁・増上縁という三種の利益を受けられることを説き示したもの。「さんえん」とも読む。摂取の三縁とも言う。善導が『観経疏』定善義で、『観経』第九真身観の「光明遍照十方世界、念仏衆生摂取不捨」の文について、自らの宗教体験を踏まえながら、念仏する者が摂取される理由を述べたもの。
親縁とは、称名念仏の行者が阿弥陀仏に対して、口に称え・身に礼敬し・心に念ずれば、阿弥陀仏はそれを聞く・見る・知るのであり、行者が憶念すれば阿弥陀仏も憶念する。阿弥陀仏は、このように称名念仏者の身・口・意の三業の一々を受けとめる。さらに、口称の念仏は仏を心に憶うことであるから、仏も行者を憶念する。阿弥陀仏と凡夫という間柄において、極めて親しい関係が成立することを語っている。本願成就の身である阿弥陀仏は、本願に基づく正定業の口称念仏をする行者の往生を願う心に応えて、仏と凡夫念仏者との間に親密な関係を成立させる。その有り様が、彼(阿弥陀仏)此(念仏者)の身口意の三業が相互に離れ捨てることがないと言われる。それは、念仏する衆生に限って三業に沿い従って人格的に呼応するという阿弥陀仏の働きである。
近縁とは、称名念仏の行者が阿弥陀仏を見たてまつりたいと願えば、仏はその称名(の声)に応じて行者の目前に現在するから、行者は仏を見たてまつることができる。すなわち、称名念仏一行の上に、行者の見仏の願いと仏がその声に応じて現れることとが実現する。念仏行者において、見ることができる機根と見ることができない機根の相違があるにしても、ここでは、目前に現在し給うと言っている。
増上縁とは、称名念仏には罪を滅する働きがあるため、称名の行者は念仏相続によって次第に罪を滅し、遂に臨終には阿弥陀仏と聖衆の来迎を見たてまつりて、必ず浄土へ往生することができる。
この三縁を善導の『観念法門』の一部で説く五種増上縁に配当するならば、親縁を証生縁に、近縁を護念・見仏の二縁に、増上縁を滅罪・摂生の二縁に、それぞれ当てはめることができる。
法然は、「かるがゆえに阿弥陀仏の三業と行者の三業と、かれこれひとつになりて、仏も衆生もおや子のごとくなるゆえに、親縁となづくと候めれば、御手にずずをもたせ給と候わば、仏これをごらん候べし。御心に念仏申すぞかしとおぼしめし候えば、仏も衆生を念じ給うべし。されば仏に見えまいらせ、念ぜられまいらする御身にてわたらせ給わんずる也。さは候えども、つねに御したのはたらくべきにて候也。三業相応のためにて候べし。三業とは身と口と意とを申候也。しかも仏の本願の称名なるがゆえに、声を本体とはおぼしめすべきにて候」(『往生浄土用心』昭法全五五九)と説き明かす中で、「仏の本願の称名なるがゆえに声を本体とはおぼしめすべき」と強調する。さらに、法然は近縁について平生と臨終とを挙げて、平生の義は「仏を念じる者は、仏、行者の身に近き故に光明摂取するなり」とし、臨終の義は「一切の念仏の行人、命終わらんと欲する時、仏、来迎し給う。九品の行人、一人も空しからず仏は来迎す」(『観経釈』昭法全一二二)とする。良忠は「今は見の機を挙げて以て近縁を釈す。設い見ずと雖も必ず来給う」と解し、「増上縁とは念仏、罪を滅する故に命終に臨んで聖を見たてまつる時、仏増上縁と為す」(『伝通記』定善義記三、浄全二・三五二上)といい、近縁の見仏は平生であり、増上縁の見仏は臨終であるとする。
法然は「光明遍照とは、此の文を釈するに三義あり。一には平等の義、二には本願の義、三には親縁等の義なり」(『観経釈』昭法全一二〇)といい、平等と本願という二義を加えて原理的に捉え、そのうえで善導の三縁解釈をそのまま引用する。法然によると、三縁で語られることは、平等大悲の発露としての本願行そのものに裏づけられているということであろう。さらに、『選択集』では、第二章段正行篇の私釈において正雑二行の得失をいわゆる五番相対の論で判じるにあたって、第一と第二とで親・近の二縁釈をそのまま用いており、さらに、第七章段光明篇でこの三縁釈を引文し、私釈では「念仏は是れ本願なり。故にこれを照摂す」(聖典三・一三八/昭法全三二七)とする。このように、『選択集』では、正行(衆生の口称念仏)と光明(阿弥陀仏の光明摂取)という双方向から語られている。
【資料】善導『観経疏』定善義、法然『観経釈』『選択集』『漢語灯録』『和語灯録』、良忠『伝通記』三、『決疑鈔』、聖冏『糅鈔』四〇、『直牒』
【参考】藤本淨彦「法然における『彼此三業不相捨離』の思想」(『法然浄土教の宗教思想』平楽寺書店、二〇〇三)
【執筆者:藤本淨彦】