走湯山
提供: 新纂浄土宗大辞典
そうとうざん/走湯山
静岡県熱海市伊豆山。伊豆山神社のこと。走湯権現、伊豆権現とも呼ばれ、関東総鎮守と称した。伊豆山の中腹に位置する。伊豆山は古代から崇敬をうけた霊験の地であり、平安期に山岳仏教によって開かれ発展した。信仰の中心となったのは日金峰と走湯であって、山と湯の二者の原始信仰から発祥したとされる。走湯山は神仏習合であり、真言・天台宗が進出し、東谷は天台、西谷は真言の拠点となっていた。東谷は安然系の天台宗が定着し常行堂を中心に天台浄土教も広まったが、法然の教えも伝わっている。源頼朝の家人加藤景廉の弟源延は、東谷浄蓮房に居住し顕密の行法に怠りなく日課三万遍を勤めたが、法然の浄土教に帰依し『浄土宗略要文』を与えられた。『念仏往生伝』(金沢文庫蔵)には、走湯山の尼妙真房は『法華経』読誦を欠かさず密教の行法も怠らなかったが、法然に面受した後、余行を捨てて専修念仏に帰依したという。走湯山は、東国における武家信仰の拠点であり、ここを通して武家社会への念仏の広まりがあった。
【資料】『走湯山縁起』(『群書類従』二)
【参考】『熱海市史』(熱海市役所、一九六七)、菊地勇次郎「伊豆山の浄蓮房源延」(同『源空とその門下』法蔵館、一九八八)
【執筆者:伊藤茂樹】