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往生礼讃

提供: 新纂浄土宗大辞典

おうじょうらいさん/往生礼讃

一巻。『願往生六時礼讃偈』『勧一切衆生願生西方極楽世界阿弥陀仏国六時礼讃偈』『六時礼讃』などとも呼称。唐・善導集記。成立年次不詳。七世紀中頃の成立か。極楽浄土への往生を目的とした具体的な実践行の方法と、六時にわたって勤める礼讃文を収録した書。前序、六時礼讃懺悔発願、後序の順序で構成されている。

前序ではまず六時に行う礼讃の概要として以下のように指示している。①日没にちもつ。『無量寿経』を典拠とする阿弥陀仏の十二光の名称を礼讃(一九拝)②初夜。『無量寿経』の要文を採集した礼讃(二四拝)③中夜龍樹「願往生礼讃偈」から引用した礼讃(一六拝)④後夜世親往生論』から引用した礼讃(二〇拝)⑤晨朝じんじょう彦琮げんそう「願往生礼讃偈」から引用した礼讃(二一拝)⑥日中。『観経』を典拠として善導が自作した礼讃(二〇拝)。次に三心五念門四修について解説する。さらに『文殊般若経』を典拠とした「一行三昧」と「無観の称名」の説示、一仏の称名見仏の対象に関する一問答礼拝称名の対象を阿弥陀仏に限定することに関する一問答阿弥陀仏一仏を称念することと雑業を実践することとの相異の解明、願文を説示している。この前序の内容は善導教学の全体像を考える際に極めて重要な箇所であり、また聖光は『授手印』で「浄土一宗の行」の具体的な内容をこの前序に求めている。特に前序所説の五念門一行三昧などは中国浄土教における実践論の展開を考える際に不可欠な内容。

六時礼讃中、第一「日没礼讃」は『無量寿経』の十二光仏などを典拠とした一九拝、懺悔作梵発願日没無常偈発願文、各種無常偈という構成になっている。特に各種無常偈三階教文献の『七階仏名』と近似した内容になっている点などから、善導は本書作成に当たって三階教儀礼を参照していたものと考えられる。

第二「初夜礼讃」は『無量寿経』の東方偈などを典拠とした二四拝、懺悔という構成になっている。この初夜礼讃の讃文の内容から善導の『無量寿経』理解の一端を見ることができる。

第三「中夜礼讃」は龍樹「願往生礼讃偈」を典拠とした一六拝、懺悔五悔懺悔勧請随喜回向発願)という構成になっている。この龍樹「願往生礼讃偈」は迦才かざい浄土論』にも見られ、また五悔智儼ちごん『孔目章』二など所説の四悔との接点を見ることができる。

第四「後夜礼讃」は世親「願往生礼讃偈」を典拠とした二〇拝、懺悔という構成になっている。

第五「旦起(晨朝礼讃」は彦琮「願往生礼讃偈」を典拠とした二一拝、懺悔という構成になっている。この旦起(晨朝礼讃正倉院『聖武天皇宸翰しんかん雑集』「隋大業主浄土詩」や法照浄土五会念仏誦経観行儀』所収の讃文などで全文を確認することができ、善導は旦起(晨朝礼讃を編纂するに際して適宜、彦琮「願往生礼讃偈」の讃文を取捨選択している。

第六「日中礼讃」は善導が『観経』を典拠として自作した二〇拝、懺悔という構成になっている。この「日中礼讃」内の讃文は『観経疏』の内容と関連し、また第二・第一五・第一六・第一七偈は『観経疏』にも見ることができる。

懺悔発願では、懺悔の詳説、三品懺悔広懺悔見仏および往生浄土と得生以後に関する願文が説示されている。特に広懺悔三階教文献『受八戒法』(P〔ペリオ本〕二八四九)所収の懺悔文と近似した表現になっており、善導懺悔文の作成の際にも三階教文献を参照していたものと考えられる。

後序は、阿弥陀仏礼讃称念することの利益に関する一問答、『十往生経』の引用、『無量寿経』の引用、『阿弥陀経』の引用①、『阿弥陀経』の引用②、結文という構成になっている。特に『十往生経』の引用は『観念法門』と、また『無量寿経』と『阿弥陀経』の引用は『法事讃』と『観経疏』と関連する内容であり、善導の著作の成立前後などを考える際に重要な内容である。

また近年、敦煌文献と一切経研究の分野からも『往生礼讃』が着目されており、敦煌文献(S〔スタイン本〕二五五三、S二五七九、S二六五九、S五二二七、P〔ペリオ本〕二〇六六〔広本〕、P二七二二、P二九六三〔広本〕、P三八四一、BD〔北京本〕八二二八)と現行本との関係などに関する研究が進んでいる。また一切経研究の分野では七寺ななつでら本『集諸経礼懺儀』下や七寺本『阿弥陀往生礼仏文』との校訂などが行われている。

本書刊本に建暦三年(一二一三)版・正安四年(一三〇二)版・明暦二年(一六五六)版・元禄七年(一六九四)版などがある。注釈書として良忠往生礼讃私記』二巻、懐音往生礼讃纂釈』五巻など複注を含め三十数部ある。


【所収】浄全四


【参照項目】➡六時礼讃


【執筆者:柴田泰山】