キリク
提供: 新纂浄土宗大辞典
キリク/[悉曇:hrīḥ]
密教における種字の一つで、そこに阿弥陀仏が象徴的に体現されているとする悉曇文字[悉曇:hrīḥ]のこと。Ⓢhrīḥの音写。紇利俱と音写する。『真言念仏集』上に「[悉曇:hrīḥ]字是れ弥陀一字の真言」(仏全七〇・一一八下)とある。また『覚禅鈔』一によれば、「理趣釈の云わく」として、紇利俱は[悉曇:ha](Ⓢha)、[悉曇:ra](Ⓢra)、[悉曇:ī](Ⓢī)、[悉曇:aḥ](Ⓢaḥ)の四字を合成して一つの真言となるとし、haは一切法因不可得の義、raは一切法離塵の義、īは自在不可得であり、[悉曇:hrīḥ]のなかの二点、すなわちaḥは名づけて涅槃を得ると為すとして、法界清浄を得るものとする説や、あるいはまたhaは無明であり痴煩悩であるが、これが転じて無痴善根の大智となり、raは塵労の義で痴によることから慳貪を起こすが、これが転じて無貪善根の大福衆となり、īは災禍の義で災いの源は多瞋恚によるが、これが転じて忍辱となり慈悲となり、aḥは涅槃の義で本性清浄の理であるとする説を挙げる(仏全四五・一六九下)。浄土宗では、葬儀にあたり、戒名の上に添える置き字として位牌に書き入れることがある。これは祭壇に名号などが奉安されていない場合、本尊に代わるものとされ、阿弥陀仏の本願により極楽往生の叶うことを表明するものとされる。なお悉曇の心得のない者はこうした書き入れをしない方がよいとされる。また、千手観音の種字とする場合もある。
【参考】須賀隆賢『引導下炬集』(隆文館、一九八五)、田原照純・福西賢兆監修『これからの浄土宗しきたり全書』(四季社、二〇〇三)、児玉義隆『梵字必携』(朱鷺書房、一九九一)
【執筆者:袖山榮輝】