沙石集
提供: 新纂浄土宗大辞典
しゃせきしゅう/沙石集
一〇巻。「させきしゅう」とも称される。無住一円(一二二七—一三一二)著。弘安二年(一二七九)に起稿され、数年間の中断の後、同六年に脱稿。鎌倉時代後期の仏教説話集。先行文献に材料を求めるより、卑俗・日常の話題を引き、仏法の要旨をわからせようとする姿勢が顕著である。書名は「金を求むる者は、沙を集めて是を取り、玉を翫ぶ類は、石を拾いて是を磨く」(序文)ことになぞらえたもの。内容は、巻一が神仏習合思想に基づく本地垂迹説話、巻二は仏・菩薩の霊験譚を中心に、当時隆盛であった浄土門を批判している。巻三は僧俗の弁論をめぐる話、巻四は遁世者の逸話、巻五は学僧の逸話および和歌・連歌の説話である。巻六は説経師の話、巻七が因果応報譚、巻八が各種の笑話、巻九は教訓譚、巻一〇が遁世譚・往生譚となっている。ただし、巻六以下は諸本によって相当の違いがある。従来、唱導資料として著名であったが、現在では広く仏教信仰をふまえた、当時の人びとの心性をうかがい得る資料として評価されている。浄土教関連の記述も多く、なかには過激な念仏者を批判した「浄土門ノ人神明ヲ軽テ蒙罰事」(巻一)などもある。
【所収】『日本古典文学大系』八五
【参考】三木紀人「無住の世界—『沙石集』『雑談集』」(『日本の説話』中世Ⅰ、東京美術、一九七三)、大隅和雄『信心の世界 遁世者の心』(『日本の中世』二、中央公論新社、二〇〇二)
【執筆者:池見澄隆】