香偈
提供: 新纂浄土宗大辞典
こうげ/香偈
一
日常勤行式などで大鏧作相に続いて最初に唱える偈文。「願我身浄如香炉 願我心如智慧火 念念焚焼戒定香 供養十方三世仏」。善導の『法事讃』(浄全四・八下)を典拠とする。私はこの体が、香炉のように浄らかであることを願います。私はこの心が、あらゆる煩悩を焼き尽くす(仏の)智慧の火のようであることを願います。私は一瞬一瞬の想いの中で、仏弟子として守るべき戒と求めるべき心の静寂という香を、(私の体という香炉の中で静かに)焚き上げ(実践し)、あらゆる世界の、あらゆるみ仏に供養を捧げます、との意。『浄土宗法要儀式大観』では法要にあたり香を焚いて供養し心を調え、如来がこの香に乗じて道場に来臨する思いで唱えるように指示している(名著普及会、一九八七、一一三頁)。『諸回向宝鑑』二では「焼香回向文」として四種を挙げている一つである(三・オ)。香偈が勤行式の冒頭に用いられる例は、文政九年(一八二六)の京都小松谷蔵版『曼荼羅勤行式』、同一〇年の『浄業略勤行式』、文政年間に活躍した順阿隆円の『吉水瀉瓶訣』『浄業信法訣』などがあり、文政年間から現行の香偈が勤行式の導入部に取り込まれたようである。また天和元年(一六八一)に忍澂が著した『浄業課誦』では「焼香讃」として、安政四年(一八五七)に観随が著した『蓮門六時勤行式』では「香偈」として、それぞれ勤行式の最初に置いている。
【執筆者:山本晴雄】
二
「香偈」一の代用偈。「願此香煙雲 徧満十方界 供養一切仏 尊法諸賢聖 無辺仏土中 受用作仏事 普薫諸衆生 同生安楽刹」。遵式の『往生浄土懺願儀』の「願此香煙雲 徧満十方界 供養一切仏 尊法諸菩薩 無量声聞衆 以起光明台 過於無辺界 無辺仏土中 受用作仏事 普薫諸衆生 皆発菩提心」(正蔵四七・四九二上)を典拠とする。この香煙が雲となり全世界に行き渡り、一切の仏を供養すると同時に、一切の衆生が等しく往生することを願うという意味。
【参考】『浄土宗日常勤行式の総合的研究』(浄土宗総合研究所、一九九九)
【執筆者:西城宗隆】