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近代化と宗教

提供: 新纂浄土宗大辞典

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きんだいかとしゅうきょう/近代化と宗教

[近代化された宗教概念]

現在我々が使用している宗教という概念は、ヨーロッパ近代という地理的・歴史的な特定条件のもと形成されていることが近年の研究によって明らかにされた。ヨーロッパ近代において推進された産業化や植民地政策、国民国家形成などの過程において、それまでの宗教概念と宗教制度は近代的な変化を遂げる。すなわち、儀礼より信仰を重視する姿勢、政教分離信教の自由などがそれにあたる。日本にこの概念が流入し、宗教という翻訳語が誕生したのは幕末期である。近世期においては、宗門・宗旨など類似する概念が用いられていたが、それらは幕府の行政用語としての性格が強く、新概念であるreligionの訳語とするには不適切であった。そこで、幕末期に外交交渉にあたった行政官らによって宗教という語が創造され、それが社会一般に広がったとされる。また時を同じくして、それまで仏道、釈道、仏門などで示されていた諸概念は「仏教」という語に統一され、宗教に関する諸概念や諸制度に組み込まれていった。

[近代化に伴う宗教変化

合理的・科学的精神の浸透、社会の産業化・資本主義化の進展といった近代特有の動向に伴い既存の宗教は大きな影響を受けた。日本では、特に明治以降において仏教が旧態依然のものとして非難を浴びるようになり、大きな変革を迫られた。近代的な宗教概念の浸透に伴う慣習的・儀礼的な仏教習俗の否定、二度の上知令および廃仏毀釈などを経て、日本仏教は様々な側面で近代社会に応じようとした。とはいえ昭和二〇年(一九四五)までは、天皇を頂点とした家族国家観や家長制を重んじる民法を支える役割として、仏教寺院で行われる祖先祭祀・先祖供養は一定の意義を有していた。しかし戦後の高度経済成長を迎えるとそれは一変する。同四三年には国民総生産が世界第二位となるが、その過程において第一次産業の就労者割合が激減した。同時に、地方から都市部への人口移動が生じ地域共同体の弱体化につながった。また都市部には核家族が激増し、伝統的な宗教とつながりが少ない宗教浮動人口が多くなった。地域共同体に根ざした活動を行っていた仏教寺院は、このような変動に定まった対応ができていないのが実情である。家や先祖の観念が大きく変化している現在、従来の在り方で仏教寺院が存続していくことを危ぶむ声もある。


【参考】藤井正雄『現代人の信仰構造—宗教浮動人口の行動と思想—』(評論社、一九七四)、池上良正他編『岩波講座宗教 第一巻 宗教とは何か』(岩波書店、二〇〇三)


【執筆者:江島尚俊】