涅槃
提供: 新纂浄土宗大辞典
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ねはん/涅槃
苦しみが消滅した状態。覚りの境地。ⓈnirvāṇaⓅnibbānaⓉmya ngan las ’das pa。Ⓢnirvāṇaの音写語で泥洹などともいい、滅度や寂滅と意訳される。また無為や択滅と同義とされる。涅槃寂静として三法印の一つに数えられる。涅槃は煩悩を滅し尽くした境地であり、『スッタニパータ』二六七偈に「涅槃を体得することが無上の幸福である」と説かれているように、仏道修行者の目指すべき到達点である。また涅槃は、煩悩の火が滅した状態、あるいは煩悩という薪が智慧の火によって焼き尽くされた状態に喩えられる。煩悩を滅するのは智慧の働きであるから、涅槃を得るためには智慧が必要である。この智慧は戒を守り禅定を実践することで獲得すべきもので、智慧によって心と煩悩の繫がりを断ち切ることが仏道実践の目的である。『俱舎論』一では、涅槃が仏法の中において最も勝れた法であるとされ、また『同』一四には「帰依法とは、謂わく、涅槃に帰するなり」(正蔵二九・七六下)とあり、仏法に帰依するとは涅槃に帰依することとしている。涅槃には、般涅槃や有余涅槃・無余涅槃、また無住所涅槃や本来自性清浄涅槃等の種類がある。有余涅槃・無余涅槃は、有余依涅槃・無余依涅槃ともいわれる。有余涅槃とは煩悩を完全に滅した涅槃であり、無余涅槃とは有余涅槃に至った者が、さらに死によって身体的な苦からも脱した涅槃である。般涅槃とは、時に大般涅槃ともいわれ、完全な涅槃を意味する。これは「無余涅槃界において般涅槃す」などといわれるように、無余涅槃と同様の意味であり、いかなるものごとにも煩わされることのない寂静の境地であり、心身が輪廻から離れた完全な消滅である。本来自性清浄涅槃とは本来清浄涅槃などともいわれ真如を意味する。無住所涅槃は不住涅槃などともいわれ、大乗仏教が理想とする涅槃である。これは菩薩の目指すべき涅槃であり、智慧によって煩悩を断ち切っているが、衆生を救う利他行の実践のために輪廻からは離れることのない涅槃である。この無住所涅槃は「生死即涅槃」や「煩悩即菩提」という考えと結びつくものであり、智慧と慈悲を兼ね備えて、覚りの世界と輪廻の世界とを自由に行き来して救済活動をすることが、大乗仏教の理想であることを示すものである。
【資料】『成唯識論』一〇、『北本涅槃経』四
【執筆者:石田一裕】