伽陀
提供: 新纂浄土宗大辞典
かだ/伽陀
一
声明の一つ。Ⓢgāthāの音写語。偈、偈頌などと翻訳する。声明では各種法要などで法要の趣旨に合った偈に定型の旋律をつけて唱えるものをいう。経典中の五言・七言などを一句として四句でまとまりをもつ偈に旋律をあてはめて唱える曲。字数などの変化により部分的に省略、増広などの変化が見られるが、全体としての要素は変わらないようにされている。伽陀には早上げ、早下げなどの伽陀独特の特徴的な旋律がある。天台宗などでは非常に多くの伽陀が知られているが、浄土宗では知恩院の祖山流と増上寺の縁山流の伽陀がある。知恩院では「光明徧照」「願以此功徳」「我此道場如帝珠」「敬礼天人大覚尊」「先請弥陀入道場」「一切業障海」「天下和順」「衆罪如霜露」の曲が伝承されている。伽陀は法要の開始部分(前伽陀)と終結部分(後伽陀)とに唱えるもので、現在は合曲・盤渉調で唱えることになっている。しかし、江戸時代の次第を見ると呂、半律などの指示がなされ歌い分けがなされていたようである。現在、知恩院の御忌では「前伽陀」(光明徧照)と「後伽陀」(願以此功徳)の二曲が唱えられ、兼実忌では「衆罪如霜露」と「後伽陀」(願以此功徳)、勢観忌では「先請弥陀入道場」の曲が唱えられている。偈文の首部を冠して光明伽陀または敬礼伽陀などと称することがある。
【録音資料】『浄土宗声明』(浄土宗、二〇〇四)
【執筆者:大澤亮我】
二
縁山声明の伽陀。声明音楽論からみると、偈頌に旋律を付け、韻響母音にユリを付け、声を長く保つことにより宗教的感情の高まりが得られる。主音を中心に上に五度(三音半)、下に四度(二音半)の枠内で旋転するものもある。多くは上に四度(二音半)、下に短三度(一音半)の枠内に留まる。『声明集』(天和三年〔一六八三〕)には、敬礼・我此道場・先請・一切業障・光明遍照・願以此功徳が伽陀としてあげられている。現行の『御忌法要集』には前伽陀・後伽陀・先請伽陀・敬礼・我此道場・自信偈がある。法会の次第中、伽陀を前半の序分に置いたときは前伽陀として、後半の正宗分に置いたときは後伽陀の扱いとなる。伽陀は導師の洒水作法、献供、稚児灌頂や誦経後の称讃などに唱え、同音のときには付楽を伴う。声楽と雅楽が混沌とした状態の中で融合しあい、演唱者と聴衆が宗教的感情に満たされ、宗教典礼音楽の極致といえる。また授戒会の正授戒の際に伝戒師転座のときにも唱える。「讃三年伽陀七年」と称し、四智讃のユリと伽陀のユリは唱法が異なる。当・押は四智讃よりも少し軽く唱えている。伽陀の曲調は、押・当・柳・引込・山・大山・ソル・逆ソリ等である。
【執筆者:田中勝道】