「法然上人行状絵図」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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ほうねんしょうにんぎょうじょうえず/法然上人行状絵図
四八巻。『勅修御伝』(略して『勅伝』)、『四十八巻伝』ともいう。一四世紀前半に成立した法然の絵伝で、詞書は比叡山功徳院の舜昌法印が編纂。内容は法然の誕生から嘉禄の法難まで「始終の行状を勒する」(聖典六・五/法伝全四)のみならず、主要門弟の事績にも及ぶ。「知恩院」の名が初出し、「浄土宗」の語が頻出するので、法然・浄土宗・知恩院の三位一体の関係を説く絵伝と評価されている。原本(国宝)は総本山知恩院に蔵し、全長五四八メートル、二三五段の詞書と二三二の絵図で構成された最大級の絵巻物。編纂の経緯を語る当代史料はなく、まとまった形で伝える文献は忍澂の『勅修円光大師御伝縁起』(享保二年〔一七一七〕刊)である。この『御伝縁起』によれば、後伏見上皇が舜昌に勅して、法然門弟の著す数部の旧伝を大成せしめ給うたので、「勅修の御伝」と呼び、徳治二年(一三〇七)から一〇年余の歳月をかけて功を終えたという。絵図は宮廷の絵所に命じて描かせ、詞書は後伏見上皇・伏見法皇・後二条天皇が宸翰を染め、青蓮院尊円法親王・三条実重・姉小路済氏・世尊寺行尹・世尊寺定成らの能書家が清書したと伝える。美術史家の研究によれば、画家・書家は特定できず、ともに十数人の関わりが指摘されている。編纂者が舜昌であることは、同人の著になる『述懐鈔』に「法然上人の勧化を画図に写し、弥陀称名の本願を巻軸に顕はす」(続浄九・一一三下、延宝三年〔一六七五〕刊本)と記し、同時代の澄円(智演)が『浄土十勝箋節論』に「知恩院別当法印大和尚位舜昌」が法然の法語を得て「祖師行状画図の詞」となしたと書いているので間違いない。
編纂の期間を知る手掛かりは次の二つがある。一つは延慶二年(一三〇九)四月、法然の配流と召還の宣旨について官務の壬生家に照会し、俗名が「藤井元彦」であること、また建永二年(一二〇七)二月二八日付および承元元年(一二〇七)一二月八日付の太政官符を返答されている。この日付の太政官符および藤井元彦の俗名を記すのは、法然伝の中では本書(巻三三、三六)だけであり、舜昌からの照会と考えられるので、本書の編纂が実際に開始されていたことを示唆する。もう一つは法然が勝尾寺で詠んだ歌「しはのとにあけくれかゝるしらくもを いつむらさきの色にみなさむ」に「この歌玉葉集に入れり」(『四十八巻伝』三〇、聖典六・四八〇/法伝全一九九)と註記するが、このことは『玉葉集』が撰進された正和二年(一三一三)以後間もない頃に編纂が完了したことを推測させる。上述の『浄土十勝箋節論』は跋文が元応二年(一三二〇)に付され、序文が正中元年(一三二四)に書かれているので、元応二年ないし正中元年が本書成立の下限となろう。本書の存在はいち早く宗外にも知られ、尊円法親王が『往生至要抄』に多くの法語や天野四郎(教阿)の話を引用し、存覚が「黒谷四十八巻絵詞」を「杉原四半紙五行定」で一〇冊に写している(『存覚上人袖日記』)。『御伝縁起』によると、舜昌は「御伝総修の賞として、知恩院第九代の別当」(浄全一六・九八六下)に任じられ、正副二本を賜ったが、不慮の災害に備えて、一二世誓阿の時に副本は奈良・当麻の往生院(奥院)の宝蔵に収められたという。副本も後伏見上皇・伏見法皇・世尊寺行俊の筆になり、正本と同時期に制作されたと伝えるが、現存の当麻本(国重要文化財)は室町時代の模本と見られている。なお、当麻本の表題は「法然上人形状画図」となっている。
本書の普及は江戸時代に入ってからで、寛永一三年(一六三六)に『黒谷上人伝絵詞』(一〇冊)と題して木版印行された。貞享(一六八四—一六八八)の頃から、聞証の命を受けた義山と円智が本書の注釈・考証の作業を始め、まず元禄一三年(一七〇〇)校訂した本文に古礀が描いた画を付した『円光大師行状画図』(二四冊)を印行し、ついに同一六年六〇巻からなる『円光大師行状画図翼賛』が完成し、翌年印行された。義山らの校訂にかかる本文は「義山本」または「翼賛本」と呼ばれ、その後永く定本の位置を占めた。しかし、例えば法然の幼名を「勢至丸」(浄全一六・一一二上)とするなど、意図的な改訂があり、厳密な校訂は藤堂祐範・江藤澂英が原本・当麻本・翼賛本と校合した大正一三年(一九二四)刊行の『大正新校法然上人行状絵図』が最初である。また、現代語訳として早田哲雄訳『勅修法然上人御伝全講』、浄土宗総合研究所編訳『現代語訳法然上人行状絵図』などのほか、英訳本として石塚龍学、H・H・コーツ共訳『Honen the Buddhist Saint: His Life and Teaching』が挙げられる。
【所収】聖典六、法伝全
【参考】塚本善隆編『法然上人絵伝』(『新修日本絵巻物全集』一四、角川書店、一九七七)、小松茂美編『法然上人絵伝』(『続日本絵巻大成』一~三、中央公論社、一九八一)、井川定慶『法然上人絵伝の研究』(法然上人伝全集刊行会、一九六一)【図版】巻末付録
【参照項目】➡舜昌、円光大師行状画図翼賛、勅修法然上人御伝全講、現代語訳法然上人行状絵図、ホウネン ザ ブディスト セイント
【執筆者:中井真孝】