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「法然上人行状絵図」の版間の差分

提供: 新纂浄土宗大辞典

 
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2018年3月30日 (金) 06:32時点における最新版

ほうねんしょうにんぎょうじょうえず/法然上人行状絵図

四八巻。『勅修御伝』(略して『勅伝』)、『四十八巻伝』ともいう。一四世紀前半に成立した法然絵伝で、詞書は比叡山功徳院舜昌法印が編纂。内容は法然の誕生から嘉禄の法難まで「始終の行状を勒する」(聖典六・五/法伝全四)のみならず、主要門弟の事績にも及ぶ。「知恩院」の名が初出し、「浄土宗」の語が頻出するので、法然浄土宗知恩院の三位一体の関係を説く絵伝と評価されている。原本(国宝)は総本山知恩院に蔵し、全長五四八メートル、二三五段の詞書と二三二の絵図で構成された最大級の絵巻物。編纂の経緯を語る当代史料はなく、まとまった形で伝える文献は忍澂の『勅修円光大師御伝縁起』(享保二年〔一七一七〕刊)である。この『御伝縁起』によれば、後伏見上皇が舜昌に勅して、法然門弟の著す数部の旧伝を大成せしめ給うたので、「勅修の御伝」と呼び、徳治二年(一三〇七)から一〇年余の歳月をかけて功を終えたという。絵図は宮廷の絵所に命じて描かせ、詞書は後伏見上皇・伏見法皇・後二条天皇が宸翰しんかんを染め、青蓮院尊円法親王・三条実重・姉小路済氏・世尊寺行尹せそんじゆきただ世尊定成さだなりらの能書家が清書したと伝える。美術史家の研究によれば、画家・書家は特定できず、ともに十数人の関わりが指摘されている。編纂者が舜昌であることは、同人の著になる『述懐鈔』に「法然上人勧化かんげを画図に写し、弥陀称名本願を巻軸に顕はす」(続浄九・一一三下、延宝三年〔一六七五〕刊本)と記し、同時代の澄円(智演)が『浄土十勝箋節せんせつ論』に「知恩院別当法印和尚舜昌」が法然法語を得て「祖師行状画図の詞」となしたと書いているので間違いない。

編纂の期間を知る手掛かりは次の二つがある。一つは延慶二年(一三〇九)四月、法然の配流と召還の宣旨について官務の壬生家みぶけに照会し、俗名が「藤井元彦」であること、また建永二年(一二〇七)二月二八日付および承元元年(一二〇七)一二月八日付の太政官符を返答されている。この日付の太政官符および藤井元彦の俗名を記すのは、法然伝の中では本書(巻三三、三六)だけであり、舜昌からの照会と考えられるので、本書の編纂が実際に開始されていたことを示唆する。もう一つは法然勝尾寺かちおでらで詠んだ歌「しはのとにあけくれかゝるしらくもを いつむらさきの色にみなさむ」に「この歌玉葉集に入れり」(『四十八巻伝』三〇、聖典六・四八〇/法伝全一九九)と註記するが、このことは『玉葉集』が撰進された正和二年(一三一三)以後間もない頃に編纂が完了したことを推測させる。上述の『浄土十勝箋節論』は跋文が元応二年(一三二〇)に付され、序文が正中元年(一三二四)に書かれているので、元応二年ないし正中元年が本書成立の下限となろう。本書の存在はいち早く宗外にも知られ、尊円法親王が『往生至要抄』に多くの法語天野四郎(教阿)の話を引用し、存覚が「黒谷四十八巻絵詞」を「杉原四半紙五行定」で一〇冊に写している(『存覚上人日記』)。『御伝縁起』によると、舜昌は「御伝総修の賞として、知恩院第九代の別当」(浄全一六・九八六下)に任じられ、正副二本を賜ったが、不慮の災害に備えて、一二世誓阿の時に副本は奈良・当麻の往生院奥院おくのいん)の宝蔵に収められたという。副本も後伏見上皇・伏見法皇・世尊寺行俊の筆になり、正本と同時期に制作されたと伝えるが、現存の当麻本(国重要文化財)は室町時代の模本と見られている。なお、当麻本の表題は「法然上人図」となっている。

本書の普及は江戸時代に入ってからで、寛永一三年(一六三六)に『黒谷上人伝絵詞』(一〇冊)と題して木版印行された。貞享(一六八四—一六八八)の頃から、聞証の命を受けた義山円智が本書の注釈・考証の作業を始め、まず元禄一三年(一七〇〇)校訂した本文に古礀こかんが描いた画を付した『円光大師行状画図』(二四冊)を印行し、ついに同一六年六〇巻からなる『円光大師行状画図翼賛』が完成し、翌年印行された。義山らの校訂にかかる本文は「義山本」または「翼賛本」と呼ばれ、その後永く定本の位置を占めた。しかし、例えば法然の幼名を「勢至丸」(浄全一六・一一二上)とするなど、意図的な改訂があり、厳密な校訂は藤堂祐範江藤澂英が原本・当麻本・翼賛本と校合した大正一三年(一九二四)刊行の『大正新校法然上人行状絵図』が最初である。また、現代語訳として早田哲雄訳『勅修法然上人御伝全講』、浄土宗総合研究所編訳『現代語訳法然上人行状絵図』などのほか、英訳本として石塚龍学、H・H・コーツ共訳『Honen the Buddhist Saint: His Life and Teaching』が挙げられる。


【所収】聖典六、法伝全


【参考】塚本善隆編『法然上人絵伝』(『新修日本絵巻物全集』一四、角川書店、一九七七)、小松茂美編『法然上人絵伝』(『続日本絵巻大成』一~三、中央公論社、一九八一)、井川定慶『法然上人絵伝の研究』(法然上人伝全集刊行会、一九六一)【図版】巻末付録


【参照項目】➡舜昌円光大師行状画図翼賛勅修法然上人御伝全講現代語訳法然上人行状絵図ホウネン ザ ブディスト セイント


【執筆者:中井真孝】