袴
提供: 新纂浄土宗大辞典
はかま/袴
和装の一種で、腰から下に着けるもの。浄土宗で用いる儀式袴には、表袴(「おもてばかま」とも読む)、差貫、切袴があり、その他に道衣の下に着用する略袴がある。袴は本来の僧服ではないが、僧侶が袴を着用することについては『啓蒙随録』に「表袴、差貫は官服に倣って僧服に用いる」(初編二・二七オ)とあるように、僧侶が宮中や殿中に昇がる際の礼装として、公家や武家などの服制を法服に取り入れたことがその理由とされている。また着用法については「整束衣には表袴、素絹には差貫を用いる。又、差貫の下を括らないものを差子といい、直綴衣に用いる」(同二・二七オ)といい、これが現在も袴着用法の基本とされている。表袴は、正装用として道具衣被着の場合に用いる袴であり、大口という緋色の下袴の上に着けることがその名の由来である。しかし現在ではほとんど重ね穿きすることはなく、裏または裾に赤い布を施し大口の名残としている。地紋は霰と呼ばれる市松模様に窠紋を配した、窠霰紋が正式とされている。差貫は長さ一身半の長い袴を、差し貫いて(内側に引き上げるように)着けることからその名がある。長素絹被着の場合に用いるのが本儀であるが、道具衣被着の際に着用しても差し支えはない。切袴は差貫を等身大に断ち切った形式の袴で、本来は袱紗衣・半素絹等の場合に用いるが、道具衣被着のときに着用することも多く、現在は儀式用として最も広く用いられている袴である。差貫・切袴は『啓蒙随録』によれば「色は白・紫・浅黄で有紋・無紋がある」とされ、大正二年(一九一三)に制定された「宗規法服条例」には官職・寺格・僧階等により地色や紋の有無などが定められていた。現在では八藤大紋が多く用いられ、色の規定はとくにないが、緋衣・紫衣には純素(白)、松襲衣には浅黄、萌黄衣には紫の切袴を着用するのが古例である。略袴は本来、切袴と同様の製式で、腰紐に飾り糸のない袴であるが、一般には俗袴形式の馬乗袴、または襠のない行灯袴を用いることが多い。なお、荘厳服被着の場合には略袴を着用してはならないと規定されている。【図版】巻末付録
【参照項目】➡切袴
【執筆者:熊井康雄】