無縁の慈悲
提供: 新纂浄土宗大辞典
むえんのじひ/無縁の慈悲
対象(縁)を選ばない仏の慈悲のこと。三種の慈悲の一つ。阿弥陀仏の広大慈悲のはたらき。『観経』第九真身観に「仏心とは大慈悲これなり。無縁の慈をもって、もろもろの衆生を摂したもう」(聖典一・三〇一/浄全一・四四)といい、善導は『観経疏』定善義の中で、「仏心は慈悲を体となし、この平等をもってあまねく一切を摂す」(聖典二・二七四/浄全二・四九下)と釈している。また、曇鸞『往生論註』上の国土荘厳第三性功徳偈釈には「慈悲に三縁あり。一には衆生縁これ小悲、二には法縁これ中悲、三には無縁これ大悲なり。大悲はすなわち出世の善なり」(浄全一・二二四上)と説いている。無縁の慈悲を出世の善となすのは、真諦訳『摂大乗論釈』一五によるならば、「無分別智無分別後智所生の善根は、出出世の善法と名づく」(正蔵三一・二六三中)と説いているように、厳密にはたんなる出世ではなく、出出世の善法より生じた慈悲である。
【参考】望月信亨『略述浄土教理史』(浄土教報社、一九二一)
【執筆者:竹内正俊】