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提供: 新纂浄土宗大辞典

おん/唵

Ⓢoṃの音写で真言陀羅尼梵唄に多用される字音。多くはその冒頭に配され、あるいは文節と文節の間に挿入される。浄土宗で用いる真言陀羅尼などは数少ないが、例えば変食陀羅尼では「オン サンバラ サンバラ ウン」と挿入され、四智讃の冒頭でも「オン バサラ」とある。この字音の起源は少なくとも古代インドにおける『ヴェーダ』の詠唱にまで遡り、いわゆるバラモン教の祭祀において祭官が『ヴェーダ』の歌詠(サーマン)の唱え始めとその終わりにこの字音を詠じる。祈禱呪文発声のための聖句と位置付けられ、同意や応諾の意を表す字音である。この字音は様々に解釈され「聖音オーム」と紹介されることが多いが、『チャーンドーグヤ・ウパニシャッド』においては万物における本質中の本質であると見立てられて念想の対象とされ、そのことに通じて祭祀を行えばその効果はより一層の大きなものになるという。またその他では「a」「u」「m」の三音節から成るとして、その三つをヒンドゥー教においてはブラフマー・ヴィシュヌ・シヴァの三神に配して三身一神を説き、密教では仏身における法・報・応の三身に配する。いずれもこの字音を、万象が一に帰す象徴に位置付けていると言えよう。なおⓈnamasと同様に帰依の対象を伴う用例が散見される。


【参考】松濤誠達『ウパニシャッドの哲人』(講談社、一九八〇)、田久保周誉『真言陀羅尼蔵の解説』(真言宗豊山派宗務所、一九六〇)、金倉円照『印度古代精神史』(岩波書店、一九三九)


【執筆者:袖山榮輝】