操作

提供: 新纂浄土宗大辞典

おに/鬼

人間の生活を脅かす怪物。鬼は、姿が見えないという意味の「おん」あるいは「陰」の字音から転訛した言葉といわれるが、さまざまな文化の影響の下に生まれた習合語と理解すべきであろう。中国の民間信仰では死霊を鬼といい、見えないものを意味し、仏教では、サンスクリット語のプレータ(Ⓢpreta)の訳語に「餓鬼」や「鬼」をあてて、死んだ後、供養されないものの意味にあてている。古代インドでは餓鬼の物語を綴った『餓鬼事経』が作成され、六道のなかの餓鬼道にいる、サンスクリット語ヤクシャ(Ⓢyakṣa、夜叉やしゃ)やラークシャサ(Ⓢrākṣasa、羅刹らせつ)など、人間に危害を加える凶暴な精霊をはじめ、牛頭ごず馬頭めず、赤鬼・青鬼などの地獄獄卒などもすべて鬼に総括した。日本に仏教が伝わると、陰陽道などの影響により、鬼は怪力で凶暴な性質とされ、その形相は牛の角や虎の牙をもち、虎の皮の褌を締めた裸形のいで立ちに固定されてくる。年中行事として、平安期頃から、修二会や節分の際に行われるようになった鬼に対する豆まきの習慣は、中国の追儺ついなを起源とする行事である。また、子供の遊びとなった「鬼ごと」(「鬼ごっこ」)、狂言「鬼瓦」など、鬼は庶民の生活に浸透している。このほか、民俗芸能になった佐渡島の「鬼太鼓」、追儺の民俗劇である「鬼やらい」などが各地に伝えられている。また、鬼を巡るさまざまな諺も生まれている。強いものが一層強みを増すのを「鬼に金棒」、実現性に乏しいことを「鬼が笑う」、口やかましい人がいない間に好きなことをする「鬼のいぬ間に洗濯」をはじめ、多くある。


【参考】柳田国男「鬼の子孫」(『定本 柳田国男集』一二、筑摩書房、一九六二)、折口信夫「鬼の話」(『折口信夫全集』三、中央公論社、一九七五)、馬場あき子『鬼の研究』(三一書房、一九七一)、小松和彦『悪霊論』(青土社、一九八九)


【参照項目】➡悪鬼餓鬼鬼子母神鬼神鬼門節分


【執筆者:藤井正雄】