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餓鬼

提供: 新纂浄土宗大辞典

がき/餓鬼

常に飢えと渇きに苦しむ亡者のこと。ⓈpretaⓅpetaの訳。薛茘多へいれいた、閉戻多、薛茘などと音写し、鬼とも訳す。梵語Ⓢpretaは元来、死後祖霊それいになるまでの死者の霊を意味し、その間食物などの供物が必要とされた。転じて、仏教では飲食物の飢餓に悩む死者の霊の意味となり、中国では死者の霊を鬼と称したことから餓鬼と意訳された。餓鬼は当初、悪業の報いとして死後に受ける飢餓に苦しむ姿として描かれ(『十誦律』二五、正蔵二三・一七八上)、また布施功徳により生天することができる死者霊的存在として扱われた(『餓鬼事経〔ペータ・ヴァッツ〕』南伝二五)。やがて、輪廻の枠組みの中で、業報に応じて死後赴く五道(五趣。阿修羅あしゅらを除く)、六道六趣)の一つの世界として位置づけられ、『正法念処経』一六~七(正蔵一七・九一上~一〇三中)では、地下にある餓鬼世界の場所や餓鬼に二種あって、一種は人中に住し、他方は餓鬼世界に住すこと、慳貪けんどん嫉妬しっとなどを原因として餓鬼世界に生まれ変わること、それぞれの業報によって三六の種類があることなどが詳細に説明される。また、地獄畜生ちくしょうと共に三悪道さんあくどう三悪趣)の一つともされる(『雑阿含経』一五、正蔵二・一〇七下)。この餓鬼世界をモチーフとした『盂蘭盆経』(正蔵一六・七七九上~下)や『救抜焰口餓鬼陀羅尼経』(正蔵二一・四六四中~五中)は、先祖供養としての盆行事や、餓鬼三界万霊供養としての施餓鬼会を生み出した。


【参考】山辺習学「餓鬼界」、坂本要「餓鬼と施餓鬼」(共に坂本要編『地獄の世界』渓水社、一九九〇)


【参照項目】➡施餓鬼六道悪趣


【執筆者:榎本正明】