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浄土苾蒭宝庫

提供: 新纂浄土宗大辞典

じょうどびっしゅほうこ/浄土苾蒭宝庫

金井秀道編。二巻。明治二七年(一八九四)に編纂され翌年八月、教報社書籍店刊。法式の啓蒙書。大本山清浄華院法主久保了寛の序文によれば、若くして増上寺に遊学し浄業に励んだ編者が、護法扶宗の思いから、近頃混乱している我が宗必須の法式に関するさまざまな事柄について、その誤りを訂正し不十分な部分を補って編纂し、『浄土苾蒭宝庫』と名付けたとされ、法要儀式関係を中心とする項目を網羅した書である。編者の凡例によれば、「浄土宗僧侶が、朝夕服膺ふくよう(心に止めて常に行う)すべき経文、法語、礼典、儀式の起因出処を蒐集した」もので、上巻は「法要之部」と「経釈之部」に分けて、諸法要儀軌、賛文、法則、経釈の要文などを集め、下巻は「雑部」として、宝洲ほうじゅうの『日用念誦』、忍澂の『浄業課誦』、良定の『無縁慈悲集』、必夢の『諸回向宝鑑』、大雲の『啓蒙随録』、子登(真言)の『真俗仏事編』その他の諸本から、日常適切な事柄を対照取捨し、誤謬を正して収載したという。上巻「法要之部」は三〇項目からなり、六時礼讃施餓鬼盂蘭盆等の法要や、化他五重、結縁授戒等の伝法法会放生会や各種講式等の特殊法要布薩・半月布薩等の現在では勤められていない儀式などを収め、「経釈之部」には、四誓偈等の常用経典が収載されている。下巻「雑部」には、四五六項目に及ぶ、要文、偈呪、声明縁起由来などを集め、その中には、日常勤行式、各種回向文、法服、執持具など、法式の基本的な項目も多く収載されている。その項目や解説の多くを引用している『諸回向宝鑑』は、大雲が「必夢諸回向宝鑑錯謬甚多し」(『啓蒙随録』)と指摘するように、出典の誤記などがかなり認められるが、本書ではその誤りは相当程度訂正され、内容も時代に応じて取捨選択されるなど、現在の『法要集』の基となった昭和一四年(一九三九)発行『改訂浄土宗法要集』の原点とも目される、法式関係の貴重な参考図書である。明治三五年(一九〇二)一一月に下巻、翌年六月に上巻が浄土教報社より再版された。


【執筆者:熊井康雄】