遺影
提供: 新纂浄土宗大辞典
いえい/遺影
故人の写真や肖像画のこと。現在では葬儀の際に祭壇の中央に遺影が飾られることが多くなっており、遺影は故人を偲ぶ重要な表象となっている。いつから葬儀で死者の写真が飾られるようになったのかは明らかでないが、第二次大戦での戦死者の葬儀で遺影が使用された事例が報告されている。葬儀が終わった後に家で遺影が飾られる場所は、仏壇の中、もしくは仏間の鴨居などであるが、居間や寝室など長時間生活する空間に飾られる場合も多い。家族は、死者の写真に対して供物を供えるなどして供養するとともに、家族の健康・商売繁盛・受験合格といった現世利益的な祈願をすることも多いことが指摘されており、位牌や墓と同じように生者と死者とを結ぶ媒体となっている。岩手県の中央部と北上川流域では、江戸時代後期から死者の姿絵と戒名を描いた絵額を菩提寺に奉納し供養する習俗があり、明治後期になると絵額の代わりに死者の肖像画や写真が奉納されるようになった。
【参考】鈴木岩弓「民俗仏教にみる『死者』への祈り—遺影を手がかりに—」(日仏年報七〇、二〇〇五)、山田慎也「近代における遺影の成立と死者表象 岩手県宮守村長泉寺の絵額・遺影奉納を通して」(『国立歴史民俗博物館研究報告』一三二、二〇〇六)
【参照項目】➡葬送儀礼
【執筆者:名和清隆】