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通過儀礼

提供: 新纂浄土宗大辞典

つうかぎれい/通過儀礼

人間の一生の中で、成長過程に伴って節目ごとにとり行われる儀礼。フランスで活躍した民俗学者ファン・へネップが、一九〇九年に出版した著書Les rites de passage(邦題『通過儀礼』)で提唱した概念である。へネップは、これらの諸儀礼に共通する①日常的状態からの分離、②非日常的状態への移行、③日常的状態へと戻る統合、という三段階の構造を指摘した。通過儀礼においては、個人が比喩的に死と再生をはたす「擬死再生」のモチーフが頻繁に使用される。通過儀礼の意義としては、環境の変化がもたらす危機を所定の手順によって克服すること、共同体からの認知により個人の社会的な地位が承認されることが挙げられる。日本の通過儀礼は、産育、婚姻、葬送に関するものが中心で、ほとんどが家制度を基盤として成り立っていた。代表的なものとしては、お七夜、名付け、初宮参り、お食初め、初誕生、七五三、成人式、結婚式、厄年、葬儀、年忌法要などである。特に伝統的な通過儀礼では、出生から成人までの儀礼が複雑で多岐に渡っている。ただし、多くの通過儀礼は戦後の伝統的共同体の崩壊によって解体と変容が進行している。日本仏教が関与する通過儀礼として、代表的なものは葬祭儀礼である。共同体からの最大の離脱である死に対しては、それにふさわしい厳粛な儀礼が必要とされてきた。死者は葬儀によって死を確認された後、一周忌、三回忌、七回忌、十三回忌、十七回忌…と続く年忌法要を経て、三十三もしくは五十回忌弔い上げとする。このような供養儀礼が成立した背景には、日本古来の祖霊信仰他界観仏教が与えた大きな影響がある。近年耳目を集める儀礼としては成人式がある。浄土宗の場合、平成一一年(一九九九)発行の『第五回浄土宗宗勢調査報告書』によれば、一年の間に成人式を実施したとする浄土宗寺院は二九箇寺であった。また総本山知恩院では、昭和四一年(一九六六)から「成人祝賀式」を毎年開催しており、平成一九年(二〇〇七)には宗門関係大学の学生檀信徒など六〇〇名の新成人が参加し、帰敬式では三帰三竟が授与されている。


【参考】A・ファン・へネップ著/綾部恒雄・綾部裕子訳『通過儀礼』(弘文堂、一九九五)、柳田国男「先祖の話」(『柳田国男全集』一三、筑摩書房、一九九〇)、石井研士『日本人の一年と一生—変わりゆく日本人の心性』(春秋社、二〇〇五)


【参照項目】➡イニシエーション儀礼


【執筆者:中村憲司】