中啓
提供: 新纂浄土宗大辞典
ちゅうけい/中啓
扇の一つ。荘厳服のときに用いる朱骨の扇。法会に際して寒暑にかかわらず威儀を整えるための執持物。金銀の扇地紙(金が表)で中骨を表裏から貼り包み、親骨の先端を外側に反らせ、畳むと握りから上方が末広がりになる扇をいう。末広の開きを中啓といい、これを音読して「ちゅうけい」と称した。公家・武家・寺家はじめ芸能の装束の備品となった。親骨は彫骨の名残を伝えて、握りから上部に大型の格狭間を三段に彫り透かし、または小型の丁子透や猫間透としている。地紙の絵様に家流や所用などによる区別を生じた。中啓のなかには、俗に「喪扇」という黒骨で薄墨の地紙のものがあり、能化の葬儀・年忌法要などのときに遺弟・法類が持つものであった。『法要集』には、壊色の法服のときに広骨扇を用い、能化の葬儀などのときに白骨の広骨扇を用いるとある。浄土宗の扇は、中啓と広骨扇の二種のみであり、持ち方などは『法要集』に準じ、威儀を整えるものであって扇ぐものではない。
【参考】中村清兄『日本の扇』(河原書店、一九四二)
【参照項目】➡扇
【執筆者:西城宗隆】