五種正行
提供: 新纂浄土宗大辞典
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ごしゅしょうぎょう/五種正行
阿弥陀仏の極楽浄土に生まれることができる五種類の正純なる行。すなわち、読誦・観察・礼拝・称名・讃歎供養をいう。これらはいずれも阿弥陀仏に深く関わる行為であるから、阿弥陀仏の極楽浄土へ往生するための純正な行と言い得る。この教説は善導の『観経疏』散善義で深心の解釈にあたって就行立信を説くなかで「行に就いて信を立つとは、然るに行に二種有り。一には正行。二には雑行なり。正行と言うは、専ら往生経に依って行を行ずる者、これを正行と名づく。何者かこれなる。一心に専らこの『観経』、『弥陀経』、『無量寿経』等を読踊し、一心にかの国の二報荘厳を専注、思想、観察、憶念し、もし礼するには、すなわち一心に専らかの仏を礼し、もし口に称するには、すなわち一心に専ら彼の仏を称し、もし讃歎供養するには、すなわち一心に専ら讃歎供養す。これを名づけて正とす。またこの正の中に就いて、また二種あり。一には一心に専ら弥陀の名号を念じて行住坐臥に、時節の久近を問わず。念念に捨てざる者、これを正定の業と名づく。かの仏の願に順ずるが故に。もし礼誦等に依るをば、すなわち名づけて助業とす。この正助二行を除いて已外、自余の諸善を、ことごとく雑行と名づく。もし前の正助二行を修すれば、心常に親近して、憶念断えざれば名づけて無間と為す。もし後の雑行を行ずれば、すなわち心常に間断す。回向して生ずることを得べしといえども、すべて疎雑の行と名づく」(聖典二・二九四~五/浄全二・五八下)とある。この説示によると、五つの正行とは読誦・観察・礼拝・称名・讃歎供養することであって、すべて中心とするところの阿弥陀仏へと注がれ、それらには正定業と助業がある。正定業とは五つの正行のなかの第四番目の称名を、助業とはその他の読誦・観察・礼拝・讃歎供養をいう。それ以外の行業は雑行という。五つの正行を修すれば(阿弥陀仏との間柄が)「心常に親近」であり、雑行は「心常に間断」すると区別される。
それを受けた法然は『選択集』二で「一には正業、二には助業なり。初めに正業とは、上の五種の中の第四の称名を以て正定の業とす。すなわち文に、〈一心に専ら弥陀の名号を念じて、行住坐臥に時節の久近を問わず、念々に捨てざる者、これを正定の業と名づく、彼の仏の願に順ずるが故に〉と云えるこれなり。次に助業とは、第四の口称を除いて外、読誦等の四種を以て助業となす。すなわち文に、〈もし礼誦等に依らば、すなわち名づけて助業とす〉と云えるこれなり。問うて曰く、何が故ぞ、五種の中に独り称名念仏を以て、正定業と為するや。答えて曰く、彼の仏の願に順じるが故に。意の云く、称名念仏は、これ彼の仏の本願の行なり。故にこれを修する者は、彼の仏の願に乗じて必ず往生することを得るなり」(聖典三・一〇六~七/昭法全三一四)と述べている。つまり、第四の称名を口称と捉え正定業とし、ほかの読誦等の四種を助業とする。すなわち、第四の口称称名は阿弥陀仏の本願の行として誓われた正因の行であるから正定業と名づけられ、読誦などの四種は本願の称名を助ける行であるので助業という。ここに法然による五種正行論の形成がある。
法然は、五種正行論をより一層明確に提示するために、同じく『選択集』二で五種雑行と五番相対の論とを述べている。すなわち、「次に雑行とは、すなわち文に、〈この正助二行を除いて已外の自余の諸善をことごとく雑行と名づく〉と云えるこれなり。意の云く、雑行無量なり。つぶさに述べるに遑あらず。ただし今且く五種の正行に翻対して、以て五種の雑行を明さん。一には読誦雑行、二には観察雑行、三には礼拝雑行、四には称名雑行、五には讃歎供養雑行なり」(聖典三・一〇七/昭法全三一四~五)と述べて、五種正行に翻対して五種雑行を説き、五種雑行を行じることは阿弥陀仏の浄土へ往生する行とはならないことを強調する。さらに「次に二行の得失を判せば、〈もし前の正助二行を修すれば、心常に親近し、憶念して断えざるを名づけて無間と為す。もし後の雑行を行ずれば、すなわち心常に間断す。回向して生ずることを得べしといえども、すべて疎雑の行と名づく〉と、すなわちその文なり。此の文の意を案ずるに、正雑二行に就いて、五番の相対あり。一には親疎対、二には近遠対、三には有間無間対、四には不回向回向対、五には純雑対なり」(聖典三・一〇八/昭法全三一五)と提示する。正行は親・近・無間・不回向・純であり阿弥陀仏の本願の行であるのに対し、雑行が疎・遠・有間・回向・雑である理由として、雑行は阿弥陀仏の本願の行ではないから、本願の行である五種の正行に依らなければならないとする。浄土宗では、この五種正行は行者の修すべき行(起行)として、阿弥陀仏の極楽浄土へ往生する者の必須条件とする。
【資料】『決疑鈔』二、『伝通記』散善義記一、『授手印』
【参考】石井教道『浄土の教義と其教団』(富山房書店・吉村大観堂・三密堂書店、一九七二)、同『選択集全講』(平楽寺書店、一九五九)、藤堂恭俊「五種正行論」(『法然上人研究一(思想編)』山喜房仏書林、一九八三)
【参照項目】➡五番相対
【執筆者:藤本淨彦】