勧心往生論
提供: 新纂浄土宗大辞典
かんじんおうじょうろん/勧心往生論
一巻。忍空述。仁平四年(一一五四)に著され、翌年に再治された。平安末期の天台僧忍空が、天台の立場から歴縁対境念仏によって往生すべきことを説いている。まず厭穢欣浄の心を発させるための十五問答が説示され、往生を求めるならば天台の覚意三昧と源信の随事の念仏によるべきことを述べる。続いて具体的な内容として、心と仏と衆生は無差別であるとする「心性本と是れ仏法なることを明かす」、阿弥陀三諦説をもって森羅の諸法はすべて阿弥陀仏の顕現したものであるとする「万法皆是れ弥陀なることを弁ず」、それぞれの対境(六境)がすべて弥陀なることを観じながら称名念仏するという「歴縁対境念仏を釈す」の三門に分けて論じられている。法然の叡山修学期である二十二歳の頃に著された数少ない浄土教文献であることは注目される。注釈書に聖冏の『勧心往生論慈訓鈔』(浄全一五)がある。
【所収】浄全一五
【参考】内田智康「忍空述『勧心往生論』の研究」(浄土学四八、二〇一一)
【執筆者:内田智康】