「四法界」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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2018年3月30日 (金) 06:26時点における最新版
しほっかい/四法界
中国華厳学派の澄観が『華厳経疏』(正蔵三六)で提唱した事法界、理法界、理事無礙法界、事事無礙法界の四種の法界。第一の事法界とは事事物物の一切を法界、真実の世界と考え、仏教の教学では説一切有部のように一切法の有為・無為や有漏・無漏を決択し、涅槃に至る形態のものが相当する。第二の理法界とは空・真如を真実の世界と考え、『般若経』や中観学派の教学が相当する。第三の理事無礙法界とは現実の事事物物の世界と空・真如の真実が相互の矛盾なく同居する世界をいい、如来蔵・仏性の教学は衆生性と如来性との相互関係から解脱・涅槃を目指すので、この法界観に相当する。第四の事事無礙法界は空・真如を媒介することなく事事物物相互の自由無礙な関係のことで、華厳教学に説く「一は即ち一切であり、一切は即ち一である」などの、相即・相入している真実の世界が展開する。澄観はこの四法界を杜順撰述といわれる『法界観門』の三重観、すなわち真空観・理事無礙観・周遍含容観に拠った。この文献では事事無礙観とはいわない。この事事無礙は澄観が批判した法蔵の弟子慧苑が『八十華厳』の注釈書『刊定記』で初めて説示したものを継承している。慧苑は法蔵の五教判を批判し、新たに『宝性論』に基づいて四教を示した。その第四の真具分満教は如来蔵・仏性の理事無礙門と華厳の教えである事事無礙門の二門がある。澄観の第三法界と第四法界に相当する表現である。遡って法蔵には理事無礙の表現は多いが、事事無礙の言葉は偽撰の疑いのある『妄尽還源観』などに出るだけである。澄観の弟子、宗密も四法界を継承するが、高い教えである華厳教学そのものの事事無礙法界よりも、『円覚経』を重んじ、教禅一致思想を主張する立場から理事無礙法界や理法界の方を好み、実践可能な真理性を強調する。澄観は禅宗を四法界の中で理事無礙法界から理法界の間に位置づける。法蔵は五教判により『華厳経』の注釈を行ったが、澄観はこの四法界を用いて注釈する。
【参考】吉津宜英『華厳禅の思想史的研究』(大東出版社、一九八五)
【参照項目】➡法界
【執筆者:吉津宜英】