「往生記」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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2018年3月30日 (金) 06:21時点における最新版
おうじょうき/往生記
一巻。伝法然撰。往生浄土が叶う機根と叶わない機根を整理した書。五重相伝の初重伝書として用いられる。本書は元来、詳細な題名を有していないことから「無題記」と呼称されてきた。本書が無題である理由は、本書が阿弥陀仏の本願という奥義と、往生浄土を目的とする一切衆生において、往生が不可疑たる真実にして、秘賾たることを明示するとともに、このことが秘蔵の義であることに起因する。なお、あえて本書に題名を附すならば「往生浄土の機を明かした」という意味から、『往生得不得記』とし、これを省略して『往生記』とも呼称している。なお、本書の冒頭に「難遂往生機」とあるが、これは書名ではない。林彦明の『昭和新訂三巻七書』の解題によれば、写本として①酉誉聖聡自筆本(増上寺蔵)②明誉了智花押本(増上寺蔵)③明誉了智所持本(増上寺蔵)④大誉慶竺自筆本(百万遍知恩寺蔵)⑤浩誉聡補自筆本(知恩院蔵)⑥安誉虎角自筆本(大巌寺蔵)⑦皎誉要信本(増上寺蔵)を挙げ、また版本として①文化三年版『三巻書随文記』②明治一六年版『三巻書』(知恩院刊)③明治四一年『浄土宗全書』第九巻所収本④大正九年『浄土伝灯輯要』巻上所収本⑤昭和六年『五重本末講義』所収本を挙げている。なお林彦明の『昭和新訂三巻七書』の解題において①②③⑤が底本とした義山校訂本は写本類との異同が多数あることを指摘したうえで、自身は底本を酉誉聖聡自筆本(増上寺蔵)とし、諸写本および版本との校合を行っている。本書の作者は「源空撰」という記述から法然とされているが、古来、福田行誡などによる様々な異論がある。ただし本書を浄土宗の伝書として見る際には、その著者はあくまでも法然ということになる。
本書は難遂往生機(一三名)、四障四機、種種念仏往生機(五種)、和語という構成からなる。難遂往生機では、阿弥陀仏に対する敬いの心が欠けたり、あるいは阿弥陀仏のことを疑っている人や、心の底から阿弥陀仏の救済を求めることができない人について一三名を提示している。次に四障四機として、往生に障害がある機として疑心・懈怠・自力・高慢(=四障)を、また往生が叶う機として信心・精進・他力・卑下(=四機)を挙げている。次に種種念仏往生機では阿弥陀仏と阿弥陀仏の本願を信じ、念仏を実践する人として、①学問も実践もともなう念仏往生の人(=智行兼備念仏往生機)②学問の研鑽を重ねながら念仏往生する人(=義解念仏往生機)③戒律を保ちながら念仏往生する人(=持戒念仏往生機)④戒を破るからこそ、阿弥陀仏にすがって念仏往生する人(=破戒念仏往生機)⑤深遠な理論や理屈に頼ることなく、またこれらを理解することもなく、たとえ永遠の過去からの罪が原因となっていかなる罪を犯そうとも、ただひたすらに阿弥陀仏のことを信じ、心から極楽世界への往生を願って念仏を続け、往生する人(=愚鈍念仏往生機)という五種を提示している。なお、これら五種の中でも、特に愚鈍念仏往生機を往生第一の機としている。最後に和語として『一紙小消息』の全文を掲載している。なお本書の注釈書として聖冏『往生記投機抄』、および多数の大五重関連文献がある。
【所収】聖典五
【資料】『初重指南目録集』『五重拾遺抄』『総五重法式私記』『大五重選定略鈔』(以上『伝灯輯要』)、『三本書籍講談記』『五重本末講義』(土川勧学宗学興隆会/『祐天寺史資料集』別巻、伝法篇二上)、福田行誡『伝語』(平成新修『福田行誡上人全集』五)、勤息義城『伝語金鍮論』(一心院、一八九〇)
【参考】林彦明『昭和新訂三巻七書』(林勧学古稀記念会、一九三八)
【執筆者:柴田泰山】