「転輪聖王」の版間の差分
提供: 新纂浄土宗大辞典
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2018年3月30日 (金) 06:29時点における最新版
てんりんじょうおう/転輪聖王
世界を武力なしに統一するインドの王の理想像。Ⓢcakravarti-rāja。転輪王、輪王ともいう。「輪」(Ⓢcakra)は戦車を象徴するが、一切の障害を破り、降伏させる力のある宝の輪を空中より得て転がし、争いなく須弥山の四洲を統治することから転輪聖王と名付けられた。また転輪聖王は、力で世界を統一する強力転輪王(Ⓢbala-cakravarti-rāja)を超えた最も優れた王と考えられた。仏教のみならずジャイナ教やヒンドゥー教にも認められるが、仏教では特に三十二相をもつものが家に留まれば転輪聖王となり、出家すればブッダとなるとする。また王家に生まれた釈尊が出家していなければ成り得ていた、とされる理想の王として対比される。転輪聖王は七宝、すなわち輪宝・象宝・馬宝・珠宝・女宝・居士宝・主兵臣宝の七つ、および大富・美男・無病・長寿の四徳を具え、千人の息子を得るとされる。『婆沙論』三〇や『俱舎論』一二には、転輪聖王の輪宝には金輪・銀輪・銅輪・鉄輪の四種の区別があるとして四種の輪王を説き、鉄輪王は一洲を、ないし金輪王は四洲を統治するとする。これを受けて『仁王般若経』上ではそれぞれ四種の輪王を菩薩の行位に配置し、鉄輪王を十信位、銅輪王を十住位、銀輪王を十行位、金輪王を十回向位とする。また『悲華経』では転輪聖王である無諍念(ⓈAraṇemin)が五十二願を立て、未来に阿弥陀仏となる授記を受ける。『法事讃私記私鈔』中に「転輪王とは無諍念王、即ち弥陀の因位なり」(浄全四・一七八下)というのはこれを受けたもの。
【執筆者:吹田隆道】