興善寺文書
提供: 新纂浄土宗大辞典
こうぜんじもんじょ/興善寺文書
昭和三七年(一九六二)四月二日、奈良市十輪院畑町にある浄土宗興善寺の本尊阿弥陀仏立像の胎内から蔵骨器とともに発見された文書(国重要文化財)。本文書は法然・証空・親蓮・欣西・円親等自筆の封紙や消息等断簡一五種を継いだ二巻からなる。第一、源空消息封紙(正行房宛、源空自署あり)。第二、同右。第三・四・五、源空消息(尾欠)(以上第一巻)。第六・七・八、証空消息。第九、欣西消息。第一〇、親蓮消息。第一一、円親消息封紙。第一二、某消息断簡。第一三、念仏結縁交名断簡。第一四、蓮生念仏結縁状。第一五、念仏結縁交名断簡(以上第二巻)。これらの紙背には念仏結縁交名が連記されている。消息の完全なものはそれぞれ正行房宛であり、かつ封紙三紙も正行房宛であることから、正行房が本像造立に当たり、両親の遺骨とともに胎内に納入したと推定される。源空消息では正行房を気遣う内容や、贈物に対する礼を述べる。また熊谷直実や、瘧病について触れることを勘案するに法然晩年の元久頃のものとされる。本文書の発見によって、嵯峨清凉寺所蔵熊谷直実宛法然書状はこれと筆跡の合致を見、双方共に真蹟と認定されるに至る。法然の筆跡研究の標準となることや、法然教団の実態を解明する上において貴重な資料である。
【所収】『鎌倉 源空消息 証空消息 熊谷直実 誓願状 迎接曼荼羅由来』(『日本名跡叢刊』五七、二玄社、一九八二)
【参考】堀池春峰『南都仏教史の研究 下 諸寺篇』(法蔵館、一九八二)、斎木一馬『古文書の研究』(吉川弘文館、一九八九)
【参照項目】➡正行房へつかわす御返事
【執筆者:南宏信】